第25話

 公園へと到着する。

 20分ぐらいは掛かったな。

 日曜日だから結構、人がいる。


 スー……ハ―……。

 大きく深呼吸をして息を整える。


「み、魅惑のパン屋。本日オープンです。パン、いかがですか~?」


 数人がチラッと振り向く。

 この恰好で、魅惑のパン屋は恥ずかしい。


 でも、そんなこと言っていられなし……もう!


「美味しいですよ~。パンいかがですか?」


 10代ぐらいの若い女の子が近寄ってきて「何があります?」


「あ、種類はこんな感じです」

 と、私はカゴをベンチに置き、女の子に見せた。


「メロンパンを1個ください」

「分かりました」


 メロンパンをカゴから取り出し、女の子に渡す。

「1.5Pになります」

 女の子からお金を受け取り、「ありがとうございました」

 

 17時00となる。

 公園には誰もおらず、人通りも少なくなってしまった。


 カゴの中には食パン一斤と、フランスパン1個が残っている。

 今日の感じだと、その場で食べれるパンの方が需要がありそうね。


 残念だけど、そろそろ帰ろうかしら。

 

 パン屋に戻る。


「あら、ミントちゃん」

「ただいま」


「お帰りなさい。どうだった?」

「すみません。これだけ残ってしまいました」

 と、カゴの中身を見せる。


「あー、良い良い。こっちもそれなりに売れたから。今日はもう、あがっていいわよ。御店を閉めたら、ご飯にしましょ」


「分かりました。じゃあ、準備をしておきますね」

「パンの場所、分かる?」


「はい、奥の調理台にあるやつですよね?」

「そうそう。お願いね」

「はーい」

 

 私は手を洗い、着替えると、調理場に行って、夕食の準備をした。

 20分ぐらいして、ナザリーさんが調理場に入ってくる。


「お待たせー」

「こんな感じでいいですかね」

「うんうん、良い良い。ありがとう」

 と、ナザリーさんは返事をして、椅子に座った。


「じゃあ、食べましょうか」

「はい、頂きます」

「頂きます」


 ナザリーさんはコッペパンを手に取ると「ミントちゃんの方、結構、売れたね」


「そうですか?」

「うん、もっと少ないと思っていた。ミントちゃんが可愛いからかしら?」


「ナザリーさんはそう言いますが、私はナザリーさんの方が魅力的だと思いますよ?」

「え? どこが?」


「女の私から見ても綺麗だと思いますし、スラッとしていて、声も透き通っていて大人の感じで、羨ましいです」


 ナザリーさんは恥ずかしそうに視線をそらし「あら、そう」

 両手でコッペパンを掴み、パクッと食べる。


 仕草は可愛らしいけどね。

 言ったら怒られそうだから、やめておくけど。

 クスッと笑う。


「なに?」

「ごめんなさい。何でもないです」


「そう? 今日の売れ方は、どんな感じだったの?」

「その場で食べられる方が、需要がありそうでした」


「それなら明日は、そっちをメインで作りましょうか」

「はい」

「今日は疲れたでしょ? ご飯食べたら、早めに寝ようね」

「はい」


 1ヶ月の月日が流れる。


「あら、また来てくれたの?」

 と、ナザリーさんが常連の男の人に言った。


「ここは可愛い店員さんが二人もいるから、ついつい足を運んでしまうのだよ」


「あら、そんなこと言っても、何も出ないわよ」

「見るだけでいいんだよ。今日は、食パン一斤をくれ」

「4.5Pになります」


 常連さんは財布からお金を取り出し、カウンターに置いた。


「はい」

 と、ナザリーさんは言って、常連さんに食パンを渡した。


 常連さんはパンを受け取ると「また来るよ」

「毎度ありがとうございました」


 出ていく常連さんを見送る。


「さて、閉めましょう」

「はい」


「私は外の看板をクローズにしてくるわね」

「分かりました。夕飯の準備を始めています」


「お願いね」と、ナザリーさんは言って、店の出入り口に向かった。


 20分が経過する。

 遅いわね?


 様子を見に行くか。

 私は立ち上がると、調理場を出て、外へと向かった。


 ナザリーさんが店先でしゃがみ、

 猫じゃらしを揺らしながら、白黒ニヤンコと戯れている。


 飛び跳ねる猫を見ながら、ニコニコと笑顔で楽しんでいた。

 やっぱり猫好きなのね。


 驚かさないように、ゆっくりと近づく……が、猫は気づいて逃げてしまった。

 残念。

 ナザリーさんが後ろを振り向く。


「あら、ミントちゃん」

「遅いから、様子見に来ました」


「あら、そんなに時間が経ってた?」

 と、ナザリーさんは言って、立ち上がった。


「20分ぐらいです」

「そう、集中していたみたいね。ごめんなさい」

「大丈夫。ネコ好きなんですか?」


「えぇ、ミントちゃんは?」

「好きですよ。動物は割と好きな方」


「そう。じゃあ中に入りましょうか」

 と、ナザリーさんは言って、ポケットに猫じゃらしを、さした。


「はい」

「そうそう、給料日ね。あとで渡すわ」

「わぁ、ありがとうございます」


 その日の夜、布団に入り今日の整理をする。

 手持ちのお金【2090P】

 

 初お給料、嬉しいな。

 仕事にも慣れてきたし、お金が貯まったら、何をしようかしら?

 うーん……アラン君に仕送りしたいけど、どこに送ればいいのか、分からないしな。

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