第27話

 次の日。

 食パン1斤 30個を作ってから、開店準備をした。 

 お店を開店して数分後、常連さんが来店される。


「あれ? 今日はナザリーさんじゃないの?」

「はい、新作を作ってます」


「へぇー、新作。どんなの?」

「燻製ワイルドボアのサンドイッチになります。食べてくださいね」


「ミントちゃんの頼みとなれば、断るわけにはいかないな」

「ふふ、ありがとうございます」

「いつから販売なの?」


「いま作っているので、明日には出来ると思います」

「そう。じゃあ今日は違うのを選ぶか」

 と、常連さんは言って、店内を歩きだした。

 

 ホットドックとメロンパンを選び、カウンターに置く。

 私は値札を確認して「ありがとうございます。4.4Pになります」


 常連さんが財布からお金を取り出し、カウンターに置く。


「丁度、御受取いたします」

 と、お金を受け取り、レジに入れる。


「楽しみにしているよ」

「ありがとうございました」


 夕方になり、閉店準備を始める。


「お疲れさま」

 と、ナザリーさんが調理場から出てくる。


「お疲れ様です。新作の方はどうですか?」

「とりあえず、10個は出来たわ」


「価格は?」

「3.5Pってところかしら。作る量は少なめに様子を見ながら増やしていきましょ」


「分かりました」


 その日の夜。

 ベッドに座り、ハンドバックから写真を取り出す。

 アラン君、元気にしているかな?


 怪我とかしてなきゃいいけど、少し心配。


「あら、カッコイイ男の子じゃない」


 慌てて振り返ると、後ろにナザリーさんが立っていた。

 またまた油断した……。


「彼氏?」

「か、彼氏なんかじゃありません!」


「そう? 仲良くお手手、繋いでいるのに?」

「こ、これはカトレアさんに言われて……」

「ふーん……。この子、クレマチスの子なの?」


「はい、でも旅に出ているので、今はいません」

「そういうことね。今度、この子にミントちゃんのエプロン姿、送ってあげれば?」


「いやです!」

「なんでー?」

「恥ずかしいからに、決まっているじゃないですか!」


「可哀想に」

「え?」

「男の子も見たいって、思っていると思うわよ」

「……」


 そうなのかな?


「まぁいいわ。送るなら言って頂戴。また写真を現像して渡すわ」

「ありがとうございます」

「そうそう。明日も複製と、レジの方お願い」


「はい、複製は同じやつを30個ですか?」

「うん」

「分かりました」


「さて、寝ましょ」

「はい」


 次の日。

 複製を済ませると、店の出入り口のドアを開け、レジに立つ。

 数分後にお客さんが数名、来店される。

 その中に、昨日の常連さんも居た。


「ミントちゃん、宣伝しておいたよ」

「わぁー、ありがとうございます!」


「いいね。その両手を合わせて喜ぶ姿! これで今日一日、幸せに暮らせそうだわ」


「そのまま、帰らないで下さいね」

「あぁ、もちろん買って帰るよ」

 と、常連さんが言って、ベーカリートレイラックに近づいた頃には売れ切れていた。


「あれ? ここにあったよね?」

「はい。好評につき、売れ切れました」

「ショックだわー。今日の夕方にはあるかな?」


「用意しておきますね。一個で良いですか?」

「うん、一個で。ありがとう! また来るよ」

 と、常連さんは言って、去って行った。


 他のお客さんは、新作の他に、通常のパンも選んでくれている。

 うんうん、順調!

 

 ひと段落ついて、昼休みになる。


 私は調理場に入ると、「ナザリーさん」

 と、声をかけた。


「どうしたの?」

「新作がもう、完売しました!」

「ホントに? 良かった」


「それだけじゃなく、昼間だけで他のも半分は売れましたよ」

「凄いわね」


「はい。常連さんの男の人が宣伝しくれたみたいで」

「そう。じゃあ今度、サービスしてあげようかしら」

「ナザリーさんの方は順調?」


「えぇ。20個、出来たわよ」

「常連さんが買いそびれて、1個欲しいって言ってたよ」


「じゃあ後で、19個を並べておいてくれる?」

「はい」


 その日の夜。

 布団に入り木の天井を見据える。

 新作の追加分も順調に売れた。


 ブームが去らないうちに、次の手を考えたい所ね。

 できれば遠く人にまで、広めたい。


 そのためには、どうすればいいのかな?

 お金をかければ、出来るだろうけど、まずは来客数を増やさないと。


 遠く……遠く……。

 遠くに行く人って、どんな人?


 うーん……あ、冒険者!

 確かアラン君、冒険者は沢山いるって言っていたわね。


 冒険者に来てもらう何かをすれば、もっと広まるかも!

 希望が見えてきたぞ~。


 次の日。

 閉店時間になり、店を閉める。

 だいぶお店にも慣れてきた。


 拾ってくれたナザリーさんには感謝の気持ちしかないな……。

 そういえば、ナザリーさんのお誕生日いつかしら?

 聞いてみよう。

 

 調理場に行くと、「ナザリーさん」

 と、声をかける。


「どうしたの?」

「ナザリーさんのお誕生日っていつ?」

「え? 誕生日?」


「うん」

「5月12日よ」

「え、もうすぐじゃないですか! 何で内緒にしていたの?」


「内緒にって……別に内緒にしていたつもりはないわ」

「何か欲しいものあります?」

「ないわね」


「えー」

「だって、今で十分だもん」


「そっか……」

「気持ちだけ受け取っておくね」


 それでも何か渡したい。明日は休みだし、町に雑貨屋に行ってみるか。

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