第22話

 町に着く。


「じゃあ俺、行くから」

「うん! いってらっしゃい」


 アラン君を精一杯の笑顔を作って見送る。

 カトレアさん、笑顔が一番って言ってくれたもんね。


 アラン君が遠く、見えなくなっていく。

 あ……。

 涙がスーッと流れ落ちる。


 大丈夫、もう見えてないもんね。

 袖で涙を拭うと、町に入った。


 まずはサイトスさんのところへ向う。

 インターホンを押して少し待つ。


「はい」


 サイトスさんが顔を出す。


「あぁ、ミントさん。どうかしましたか?」

「実は薬草の定期便について、ご相談が」


「そうですか。立ち話もなんですから、中へどうぞ」

「お邪魔します」


 中へ入り椅子に座ると、サイトスさんが緑茶を持ってきてくれた。


 テーブルに置き「どうぞ」

「ありがとうございます」


 サイトスさんも座る。


「それで、定期便がどうかしましたか?」


「はい、実は薬草の栽培が追いついてなくて、今度の定期便で薬草が無くなってしまいそうで……すみません」


「そうでしたか、仕方ないですよ。どれくらい待てばいいですか?」


「2ヶ月ぐらいです」

「分かりました」


「あと、これからはカトレアさんだけで栽培するので、数量も少なくなるかと」


「ミントさんはどちらへ?」

「この町に住もうかと」


「分かりました」

「すみません」

「いえいえ、お気になさらずに。用件はそれだけで?」


「はい」

 私は緑茶を飲み干すと「それでは、失礼します」

 と、立ち上がった。


「またいつでも来てくださいね」

 と、サイトスさんが立ち上がる。


「ありがとうございます」

 と、頭を下げて玄関へと向かった。

 

 研究所を後にして、公園へと向かう。

 あ、クレマチスが咲いている!


 中央の花壇に色とりどりのクレマチスが咲いていた。

 白や赤・ピンクや紫、グラデーションになっている花もある。


 綺麗ね……まるで私たちの門出を祝ってくれているかのようで、心がウキウキする。


 ベンチに座り、しばし眺める。

 

 まずは仕事がありそうな所をザッと見て、泊まる場所を見つけるか。


 最後はどうやってアラン君をサポートするか。

 早く、サポートはしたいけど、焦りは禁物!


 複製能力も知られたくないし、慎重に行こう。

 私は立ち上がると、店が立ち並ぶ方へと向かった。

 

 店はたくさんある。

 だけど、人が多いからか、アルバイト募集している所は、なかなかない。


 少し離れた場所ならあるかな?


 店が少なそうな方へと移動する。

 川が流れ、橋がある場所へと辿り着く。


 ヤバッ、店どころか、何もない。

 グ~……。

 沢山歩いたからか、お腹が空く。


 コッペパンでも、食べようかしら?

 でもこのコッペパンを食べたら、もう食べるものないし……。

 かといって、お金は節約したい!

 

 辺りをキョロキョロ見渡す。

 よし! 誰もいない。


 念のため、橋の下に行って、複製しよう。

 土手を滑り降り、橋の下へと向かう。

 

 ここなら死角になっているから、大丈夫なはず!

 私は地面に座ると、ハンドバックからパンを取り出し、ラップを取った。


 キュイン──ポンッ!

 元のパンをまたラップに包み、バックに入れる。

 

 頂きます!

 出来たてホヤホヤのコッペパンに、かじり付く。


 美味しい……。

 ザッと、右横から砂利の擦れた音がする。

 なに!?


 パンを落とし、慌てて振り向く。

 そこには、黒のロングスカートに、白のブラウスを着た、綺麗なお姉さんが立っていた。


 靴は黒のパンプスで、大人っぽい雰囲気がある。

 茶色のショートボブの髪を揺らしながら、私に近づいてくる。

 見られた!?

 

 お姉さんは私の横にしゃがんだ。


「いまの……見てました?」

「ん? 何が?」

「えっと、パンを食べているところ」


「見たわよ」

「じゃあ、その前は?」

「見たわよ」


 ガーン……。

 じゃあ、何が? じゃないじゃない

 軽率だった私……。


「内緒でお願いします」

「んー……どうしようかな」

 と、お姉さんはニコニコしている。


 小悪魔め!

 あぁ、どうしよう……。

 このまま、お姉さんに弱みを握られ、あんなこ とや、こんなことに……。


 背筋がゾッとする。

 お姉さんは落ちたパンを拾い上げ、マジマジ見ている。


「普通のパンね」

「えぇ……」

「ねぇ、お願いがあるんだけど」


 来た!


「何でしょう?」

「私の店で働かない?」


 ほらね。あぁ、ただ働きさせられるんだわ私。

 お姉さん、綺麗だから水商売かしら?


「もちろん、タダとは言わないわ」

「え?」

「まさか、タダ働きさせると思っていたの?」


「はい」

「ハッキリ言うわね」

 と、お姉さんは苦笑いをして立ち上がった。


「そんな非道な女じゃないわ。そうね……一緒に働いてくれたら、三食昼寝つきで、泊まる場所もドドーンと提供する。これでどう?」


「どんな仕事です?」

「警戒しない、警戒しない。いかがわしい店じゃないわ。単なるパン屋よ。まだ開業したばかりなの」


「へぇー、パン屋さんだったんですか」

「さっきの能力で、ちょちょっと増やしてもらえれば、助かるんだけど」


「内緒にして、もらえます?」

「するする」


「本当に?」

「うんうん」


「じゃあ何で、どうしようかなーなんて言うんですか」

「あなたが可愛いから、からかいたくなったの!」


 なんだか腑に落ちないけど、悪い条件ではない。


「分かりました。絶対に内緒ですよ」

「うん、約束」

 と、お姉さんは言って、小指を出した。


 私も小指を出すと、お姉さんは楽しそうに指きりをした。


「私の名前はナザリー。あなたは?」

「ミントです」


「ミントちゃん。似合っているわね」

「どうも」


「じゃあ早速、お店に行きましょうか。付いてきて」

 私はバックを手に取ると、汚れたパンを回収して、立ち上がった。

 ナザリーさんの後についていく。

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