第17話

 次の日の夕方。


 今日の分の複製を終わらせ、

 畑に水撒きをしていると、アラン君が現れた。


「あら、アラン君。ちょっと待っていてね」

「あぁ、大丈夫」

「――不思議ね、こうやって過ごしていると、異世界にいるって感じじゃなくなるの」


 アラン君は、畑を見ながら、しゃがむと「ミントの世界はどんな世界なんだ?」

「ん? そうね……。景色も人も、こことあまり変わらないかな。大きく違うのは、魔法は存在しないってこと」


「魔物がいるのに、魔法がないのか。それは厳しいな」

「うん」

「じゃあこっちに来て、複製能力が使えるようになってビックリしただろ?」


「ビックリしたというより、興奮していたかな」

「ふっ、お前らしいな」

「アラン君は、魔法を使えるようになったとき、どうだったの?」


 アラン君は立ち上がると、

「すごく嬉しかった。俺、昔は病気がちで、読書ばかりしていたんだ。好きだったのは冒険もの、それから魔法に憧れて、体を鍛えていたら、病気もしなくなっていた。だから俺にとって魔法は特別なものなんだ」


「冒険者になりたいと思ったのも、同じ理由?」

「あぁ、頑張ればできる。それが分かったから、挑戦したくなっていた」


「ふふ、良いんじゃない?」

 と、私は言うと、外の蛇口を閉めた。


「そうだ。渡すタイミングが遅かったけど、これやるよ」

 と、アラン君は小さな袋を差し出した。


「なに?」


 アラン君から受け取り、袋を開けてみる。

 あ……濃い青のシュシュだ。


「これ、どうしたの?」

「買った。畑仕事をしているときに、髪の毛が邪魔そうだったから、結んだら、どうかなって思って」


「もらっていいの?」

「あぁ。日頃、俺を雇ってくれている、お礼だよ」

「お互い様だから、そんなの良いのに。ありがとね」


 早速、シュシュを使って、ポニーテールにしてみる。


「どう? 似合う?」

「あぁ、似合ってるよ」


 ドキッ!

 てっきり、いつものような反応かと思ったら、素直な反応で照れるじゃない。


「どうも……ところで、アラン君って、兜は被らないのね」

「あぁ、かゆくなるから、苦手で」


「なるほどね」

 と、私は言って、財布からお金を取り出し「はい、今日の分」

 と、渡した。


「ありがとう。そうだ、明日には巣窟の最深部に到着すると思う」

「え? もう?」

「あぁ、順調にいけば明後日には解決すると思う」


「――そう」

「嬉しくないのか?」

「え? うぅん、嬉しいよ。ただ思ったより早かったから、ビックリしただけ」


「そういうことか。じゃあ俺、帰るから」

「うん」


 アラン君を見送る。

 繋ぎ止めていたものが、終わりを迎えようとしている。

 嬉しいようで、悲しい気持ち。

 何と言ったら良いのか分からない、その複雑な気持ちは、私の胸をキューっと締め付けた。


「分かっていたはずなのにね……」


 スッー……と、大きく息を吸い、フーッと吐き出す。

 深呼吸をして、気持ちを落ち着けると、家に入った。


 その日の夜。

 今日の整理をする。

 手持ちの薬草【59個】

 手持ちのお金【315P】

 依頼の期限【3日】


 シュシュを外して、ベッドの横にある小さな木のテーブルの上に置く。

 そういえばアラン君の誕生日はまだ先だったわね。

 誕生日前に旅に出ちゃうのかな?

 うーん……。

 明日、町に行って買っておこう。


 戦いの準備もしておかなきゃね。

 サイトスさんの所にも寄ろうかしら。


 次の日の昼過ぎ。

 

 薬剤研究所を訪れる。

 インターホンを押すと「はい」

 と、サイトスさんが出てきた。


「こんにちは」

「あぁ、ミントさん。ちょうど良い所に。毒消しの薬、出来上がりましたよ。まだ1個だけですが、後で持ってくるので、差し上げますね」


「ありがとうございます」

「今日は、どういた用件で?」


「実は回復薬を買いたいなって思いまして」

「あぁ、すみません。まだ差し上げていませんでしたね」


「え? 頂いていいんですか?」

「もちろん。毒消しの薬と一緒に、持ってきますね。少々お待ちください」

 

 少し待っていると、サイトスさんが出てきて

「お待たせしました。これです」

 と言って、回復薬の小瓶を3個と毒消し薬の小瓶1個をくれた。


「ありがとうございます」

「いえいえ、また何かありましたら、お越しください」

 と、サイトスさんは言って、ドアを閉めた。

 次は戦いの道具ね。


 確かアラン君と買い物に来た時に、この辺に武器屋があったはず。

 あった!

 大きい木の看板に武器屋と書かれているので、すぐに分かる。

 私はドアをあけ、中に入った。

 武器屋と書かれているが、鎧や兜、アクセサリーなんかも飾られている。

 

 へぇー、かっこいい。

 きょろきょろと、あたりを見渡す。


 私でも使えそうな武器、無いかしら?

 細長い軽そうな剣を手に取ってみる。


「――重ッ!」

 男の店員が慌てて駆け寄ってくる。


「お譲ちゃん、駄目だよ。勝手に触っちゃ」

 と、店員は言って、剣を元に戻した。


「鞘があるにしても、怪我しちゃうよ?」

「はい、ごめんなさい」


 何あの重さ。男の人は、こんなのブンブン振り回してるの?


「あの、私でも使えそうな武器あります?」

「予算は?」

「200Pぐらいです」


「んー……。さっきの様子みていると、ナイフぐらいだな」

 店員は、何本も剣やナイフが入れてある樽を指差し、

「そこの下取り品の中から選ぶといい」

「ありがとうございます」

 

 樽の中を覗き、ナイフだけを手に取り、選ぶ。

 これにしようかしら。

 刃渡り10cm程度の、握る部分が黒いシンプルなナイフを選ぶ。

 あとはアラン君の誕生日プレゼント。

 

 本人は、かゆくなるからって嫌がっていたけど、頭は大切よね……。

 通気性のよさそうな兜はないかしら?

 

 ごつくて、かっこいいのはあるけど、なかなか無いわね。

 それに高い……。

 ふとカウンターに目を向けると、綺麗に畳まれているバンダナを見つける。


 バンダナか、防御としては弱いけど、兜よりは蒸れないかな?

 もし駄目でも、いろいろ使えそうだし、それにしよう!

 

 色は何色にしよう?

 茶色の髪だから、黒がいいかな?

 すぐボロボロになるかもしれないし、2枚買っておくか。


 2枚、無地のバンダナを手に取ると、ナイフと一緒に、カウンターに置いた。


「全部で70Pになります」


 財布からお金を取り出し、カウンターに置く。

 店員は回収すると「毎度あり」

 

 お店の外に出る。

 さて、買うもの買ったし、帰るか。

 

 複製を済ませ、収納箱に入れていると、アラン君が現れる。

 収納箱の鍵をかけると「調子はどうだった?」


「順調だった。約束通り、明日は一緒に行こう」

「そう……分かった」

 と、私は返事をして、アラン君に近づき、

「渡したい物が色々あるの。ちょっと待っていて」


 私は玄関に行き、玄関に置いてあった今日もらった物と、買った物を手に取ると、またアラン君のところへ近づいた。


「まずは今日の分のお金」

 と、私は財布からお金を取り出し、渡す。


「ありがとう」

 と、アラン君は受け取り、腰にかけてあった小袋に入れた。


「次は回復薬と、毒消し薬ね」

 と、小瓶を全部、渡す。


「ありがとう」

 と、アラン君は言って、受け取り、ズボンのポケットに入れた。


「最後にこれ」

 と、バンダナの入った袋を渡す。


「これは?」

 と、アラン君は言って、袋を開けた。


「少し早いけど、お誕生日プレゼント! 旅に出ちゃったら、あげられないでしょ?」

「もらっていいのか?」

「うん」

「ありがとう。大切に使うよ」


「どう致しまして。明日は何時に集合?」

「ここに朝の9時でどうだ?」

「了解」


 アラン君を見送る。

 明日、うまくやれるかな

 

 その日の夜。

 今日の整理をする。

 手持ちの薬草【68個】

 手持ちのお金【220P】

 依頼の期限【2日】


 今日は、明日に備えて、早く寝よう。

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