第16話

 次の日の朝。

 ノックが聞こえる。

 こんな朝早くから、誰だろ?

 玄関に向かい、ドアを開ける。


「はい?」

「よぅ」

「アラン君。おはよう」

「おはよう」


「どうしたの?」

「これ」

 と、アラン君が、30cmぐらいの細長い箱を差し出す。


「なに?」

「パウンドケーキだ。カトレアさんと一緒に食べてくれ」

「わぁ、ありがとう。アラン君も食べていく?」


「いや、俺は今から魔物退治に行くから、いらない」

「そう? じゃあ、有難く頂くね」

「あぁ」


 アラン君は返事をして、去って行った。


 ドアを閉め、居間へと向かう。


「カトレアさーん」

「どうしたの?」

「アラン君がパウンドケーキくれた」


「まぁ、それでアラン君は?」

「魔物退治に行っちゃった」

「あら、じゃあ今度、お礼を言わなきゃ」


「カトレアさん、私からも、あげたい物があるの。ちょっと待ってて」

「あら、何かしら?」

 

 ベッドの方へと向かい、

 ベッドの横にあるタンスにしまっていた昨日買った服を取り出すと、居間に戻った。


「はい、お誕生日おめでとうございます」

 と、カトレアさんに差し出す。


「あら……素敵のカーディガンじゃないの」

「昨日、アラン君と選んだの」

「そう……ありがとう」

 と、カトレアさんはニッコリと笑う。


 そして早速、上に羽織った。


「サイズどう?」

「大丈夫、ありがとう。大切にするわね」

「うん!」

 

 カトレアさんはカーディガンを脱ぎ、綺麗に畳むと、タンスの方へと持って行った。


「今日、着ないの?」

「うん、畑仕事がない日にする」

「今日ぐらい休めばいいのに。教えて、何をすればいいの?」


「じゃあ、手分けしてやりましょうか。やることは、種まきよ」

「分かった。今やる?」

「そうね、やりましょうか。パウンドケーキはその後にしましょ」

「うん」


 種まきの準備をして外に出て、畑に向かった。 

 カトレアさんはしゃがむと、

「まず最初に、土に穴をあけていって欲しいの」


 カトレアさんは右手の人差し指を立て、土に差し込むと、グリグリと穴をあけた。


「こんな感じにね。間隔は10cm程度。大体でいいわ」

「次は片手に種を出して、大体5~6粒ぐらいを、つまんで穴の中に入れればいいわ。種は小さいから気を付けてね」


「最後に土を優しく被せれば完成よ」

「肥料は?」

「ほとんど必要ないわ。様子を見ながらね」

 と、カトレアさんは言うと、立ち上がり「手を出して」


 私が右手を出すと、種の入った袋をサッサッと振り、種を出した。


「私は手前からやるから、奥からお願いね」

「分かった」

 

 二人でやったので、30分ぐらいで作業が終わる。


「やっぱり二人でやると早いわね」

 と、カトレアさんは言って、首にかけてあったタオルで額の汗を拭いた。


「そうだね」

「あとは水撒きをするだけよ。外の水道にホースを繋いで、軽く湿らす程度で良いから。この季節だと1日1回ぐらいでいいかな。雨の日はいらないわ」


「分かった」

「じゃあ、やっといてくれる? 私、パウンドケーキの準備をしてくるね」

「はーい」


 水撒きを終わらせ、外で手を洗うと、中に入る。

 居間に行くと、カトレアさんが「手は洗った?」


「うん、洗ったよ」

「じゃあ座って、用意が出来たわよ」

「ありがとう」


 カトレアさんは、私があげたカーディガンを羽織ってくれていた。

 その気遣いがとても嬉しい。

 

 テーブルには、紅茶が淹れられたティーカップが置かれており、砂糖とミルクが用意してあった。


 パウンドケーキが、3センチぐらいに切られていて、1つの大きな陶器の皿に置かれている。


「たまには贅沢したって良いわよね?」

「うん、うん」

 と、私は返事をして、椅子に座った。


「それでは頂きましょうか」

「うん、頂きます!」


 紅茶の良い香りが漂ってくる。

 私は取り皿を1枚取り、パウンドケーキを乗せると、カトレアさんに渡した。

「はい」

「ありがとう」


 カトレアさんが受け取る。


 今度は私の分を取り、「美味しそう」

 一口食べる。

 ほのかに香る、お酒の匂いが美味しさを際立てさせる。


「カトレアさん、美味しいね」

「うん」

「アラン君、ナイスチョイス」


 私とカトレアさんは、それぞれ2切れだけ食べ、片付けを始めた。

 

 その日の夕方。

 アラン君が家を訪れる。

 カトレアさんも一緒に玄関を出て、「ありがとうね、アラン君」

 と、お礼を言った。


「いえ、喜んで頂けたみたいで、嬉しいです」

「美味しかったよ」

「そうか、あそこのパウンドケーキ、妹も好きなんだ」


「へぇー、そうだったの」

 私は財布からお金を取りだし、「はい、今日の分」

 アラン君は受け取ると「確かに。じゃあ俺、帰るから」


「うん」

 カトレアさんと2人で、アラン君が見えなくなるまで見送った。


「カトレアさん。私、複製してから家に入るね」

「無理しちゃ駄目よ?」

「大丈夫。もう大体、分かったから」

「そのようね」


 カトレアさんが家の中に入る。

 私は玄関を閉めると、今日の分の複製をした。

 キュイン──ポポポンッ!

 収納箱にしまって、鍵をかけると、家に入った。



 その日の夜。

 今日の整理をする。

 手持ちの薬草【50個】

 手持ちのお金【340P】

 依頼の期限【4日】


 カトレアさん、喜んでくれてたし!

 ケーキも美味しかったし!

 薬草の栽培も順調だし!

 今日も絶好調!

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