第9話

 次の日の夕方。

 

 アラン君、遅いなー……

 木のテーブルに、頬杖をつきながら、アラン君が来るのを待つ。


 今日も来るって言っていたのに、おかしいな。

 用事でも出来たのかしら?

 まぁいいわ。今日の分の複製も終わったし、何をしよう?


「ただいま」


 と、カトレアさんが、暗いトーンで言って、買い物から帰ってくる。

 何かあったのかしら?


「お帰りー」


 私は運ぶ手伝いをするため、玄関へと向かう。


「カトレアさん、何かあったの?」

 カトレアさんは、買い物袋を一旦、床に置くと「ミントちゃん、落ち着いて聞いてね」


 なんだろ?


「うん」

「アラン君。今日、怪我をして、病院に運ばれたんだって」

「え……」


「でも大丈夫。命に別状はなく、3日後には家に戻るって」

「じゃあ明日、お見舞いに行ってくる」

「うん、そうしてあげて。場所は聞いてきたから」


 カトレアさんはそう言うと、買い物袋を持った。


「私が持つ」


 カトレアさんから荷物を受け取ると、台所に運んだ。

 私のせいだ……私が巻き込んだから。

 

 その日の夜

 今日の整理をする。

 手持ちの薬草【26個】

 手持ちのお金【169P】

 依頼の期限【あと4日】


 落ち着かない……今日、眠れるかな。


 次の日。

 クレマチスの町にある病院へと向かう。

 

 ここね。

 民家と変わらない大きさの一階建ての病院だ。

 壁は白く、多少のヒビ割れはあるものの、古くはない。


 町から少し離れている所にあるのもあり、周りには木が数本、立っていた。

 

 とりあえず中に入る。

 受付が直ぐ前にあり、左側には待合室があり、長椅子が縦に三つ並んでいる。


 受付のお姉さんに「あの、アラン君がここにいるって聞いて」

「アラン様でしたら、この廊下を真っ直ぐ進んで頂き、左側にある病室になります」

「ありがとうございます」


 言われたとおり、病室へと向かう。


 病室に入ると、6個の木のベッドが並んでいて、

 その奥に、左手で本を持ちながら、読んでいるアラン君がいた。


 右手は包帯が巻かれており、固定されている。

 骨が折れてしまったのね。


 私はアラン君に近づき「アラン君、大丈夫?」

 アラン君は近くにあった小さなテーブルに本を置くと、「あぁ、大丈夫」

 と、苦笑いをし、「見舞いに来てくれたのか?」


「うん」

「そうか、ありがとう」

「――ミント? そんな暗い顔して、どうしたんだ?」


「ねぇ、アラン君……」

「ん?」

「もう、魔物退治いいよ」


「は? いいよって、どういうことだよ?」

「しなくていい」

「は? なんだよ、それ! 俺が不甲斐ないからかよ!」


「そんなんじゃないよ!」

「あなた達」


 看護婦さんが慌てて、駆けよってくる。


「あなた達、病院は沢山の患者さんがいるの。静かにしてください」

「すみません……」


 看護婦さんが戻っていく。


「ごめん。ここでする話じゃなかったね」


 私は今日つくった薬草の半分と、お金を15P、テーブルに置いた。


「お金と薬草を置いておく。早く良くなってね。そうしたら、続きを話そう」


 アラン君は黙って、うつむく。

 私は病院を出て、家に帰った。


 その日の夜。

 テーブルに座り、カトレアさんと今日のことを話す。


「ねぇ、カトレアさん。私、間違っていたかな?」

「そうね……ミントちゃんが優しさで言ったのは分かるわ。でもアラン君はきっと、拒絶されたのだと思ったのね」


「そんなつもりは……」

「ないわよね。男の人ってなかなか複雑よ。それをそうさせるのはプライド」


「プライド?」

「そう、ミントちゃんに『しなくていい』って言われて、自分が頼られなかったことに傷ついたのよ」


「あの子のこと、あまり知らないけど、優しいことは何となく分かる。きっとあの子は、自分を頼ってくれた私達を守りたい。そんな気持ちでも、魔物退治を頑張っていたのだと思う」


「それをやらなくていいなんて言われたら、ミントちゃんなら、どう思う?」

「悲しいし、腹が立つ……そっか、そういうことか」

「アラン君が、治ったら、また話し合えばいいわ」

「うん、そうする」


「まぁ、アラン君が怒ったのは、他にも理由があるかもしれないけど」

 と、カトレアさんは言って、クスッと笑うと、椅子から立った。

「他にも?」

 

 寝る準備を済ませ、布団に入り、今日の整理をする。

 手持ちの薬草【30個】

 手持ちのお金【154P】

 依頼の期限【あと3日】

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