第8話

 次の日の夕方。

 薬草を作り終え、家に入ろうと、アラン君が森の奥から出てきた。


 私はアラン君に近づき

「今日は、おしまい?」


「あぁ」


 ん?


「アラン君、肩に血みたいのが……」

「あぁ、かすり傷だ」


「バイ菌入ったりしたら大変だから、この薬草あげる」


 アラン君に1個薬草をあげる。


「ありがとう」


 アラン君は薬草を受け取ると、早速、食べた。


「ねぇ、アラン君って、回復魔法は使えないの?」

「あぁ、俺は攻撃魔法しか使えない」


「へぇ……、良く知らないんだけど、魔法って誰でも使えるの?」


「いや、誰でも使える訳ではない。特に回復魔法が使えるのは、本当に一握りの人間だけさ」


「そうなんだ……そうだ。今日の分のお金」


 財布から取り出し、アラン君に渡す。


「ありがとう」

「あと、これ。訳あって、全部はあげられないけど」


 出来たてホヤホヤの薬草を5個渡す。


「いいのか?」

「いいのよ。これぐらいしか出来ないし」

「助かるよ」


「洞窟の方、どうだった?」

「なかなか深そうだ。悪いが結構、時間がかかりそうだ」

「そう……無理しないでね」


「あぁ。じゃあ、帰るよ」

「うん」


 私はアラン君を見送ると、家の中に入った。

 

 その日の夜

 今日の整理をする。

 手持ちの薬草【10個】

 手持ちのお金【179P】

 依頼の期限【あと6日】


 次の日の夕方。

 ノックが聞こえる。

 アラン君かな?


 玄関に行って、ドアを開ける。


「よう」

「やっぱり、アラン君か」

「お疲れさま」


 カトレアさんが奥から歩いてきて、そう言った。


「いまから夕飯なの。一緒にどう?」

「え? いいんですか?」

「いいのよ。遠慮しないで」


「――すみません。では御言葉に甘えて、お邪魔します」

「はい、どうぞ」

 

 台所に行き、私とカトレアさんで夕飯の準備をする。

 アラン君は落ち着かない様子で、ソワソワしていた。


 カトレアさんが、玉ねぎのスープを置くと、アラン君が「何か、手伝いますか?」


「大丈夫よ」

「そうですか……」


「そんな緊張しないで。自分の家だと思っていいのよ」

 と、カトレアさんは言って、ニコッと笑った。


「はい」


 私はそんな二人の様子を見ながら、コッペパンを運ぶ。

 あとは、サラダとバター、それから水ね。

 

 それぞれが、席に着く。


「若い子達には足りないかもしれないけど、ごめんなさいね」

「いえ、大丈夫です」

「うん」


「そう、では頂きます」


「頂きます」

 と、私とアラン君は同時に言って、手を合わせる。


 いつも二人だけなので、狭く感じるけど、なんだか嬉しい。


「アラン君」

「ん?」

「アラン君は、兄弟いるの?」

「妹が一人」


「あー、そんな感じがする」

「ミントは?」

「私は弟が一人」


「あー、そんな感じする」


「クスッ、不思議ね。そんな雰囲気が出てしまうのかしら? 趣味は?」


「読書」


「意外、運動系かと思った」

「運動も嫌いじゃないが、いろいろと勉強もしたいんだ」

「へぇー……」

「ミントは?」


「私? んー……」


 考えたら、私の趣味って何なのかしら?

 あまり深く考えずに生きてきたから、なかなか思い浮かばない。


 綺麗なものを見るのは、好きだ。

 だからあの時、花畑に行って、花をぼんやり眺めていた。


「花屋さんになりたいのか?」

「うーん……そこまでは考えていない」


「そういえば、カトレアさんの趣味は?」

 と、私が聞くと、カトレアさんはスープを飲み込み「趣味ね……」

 と、考えだす。


「これといってないわね。あるとすれば、薬草の栽培が趣味だったのかしら」

「なるほどね。仕事が趣味って言うのも憧れるな」

 

 会話が途切れる。

 次は何を聞こう……。


「2人の誕生日はいつ?」

「私は4月2日」

「俺は7月10日」


「ところで今、何月?」

「あ? なに寝ぼけたこと言っているんだ?」

「どうせ私はいつもボケていますよー」


「3月よ」

「3月か……」


 もうすぐカトレアさんの誕生日なのね。何かあげたいな


「ミントは何月なんだ?」

「え? あ、12月!」

「それまでに帰れるといいわね」

「うん」


「帰れる? そういえば、何でカトレアさんの家に居候しているんだ?」


「私、どこから来たか分からないの。だからそれが分かるまで、住ませてもらっているのよ」


「記憶喪失か?」

「うぅん、そんなんじゃないと思うけど」

「そうか、何か悪いこと聞いちまったな」


「うぅん、気にしてない」

「そうか、それなら良かった」


 アラン君は、最後のパンのかけらを口に入れ、スープで流し込むと「さて、そろそろ帰ります」


「あら、もう帰るの?」

「えぇ、家族が心配するので。ご馳走になりました」


「お粗末様でした」

 と、カトレアさんは言って立ち上がり「見送るわ」

「私も」


 私とカトレアさんは、アラン君が帰っていくのを、手を振りながら見送った。


「あ、今日の分のお金、払い忘れた! 追いかけてくる」

「私は先に家の中に入っているわね」

「うん」

 

 アラン君を走って追いかける。


「アラン君」


 私が呼ぶと、アラン君は立ち止まり、こちらを振り返った。


「どうした?」

「今日の分のお金!」

「あー、俺も忘れていた」

「ふふふ」


 ハンドバックから財布を取り出し、硬貨を取り出す。


「はい」

「確かに」

「薬草は足りてる?」


「あぁ、まだある」

「足りなくなったら、言ってね」


「あぁ、助かる。そうだ、今日は楽しかったと、カトレアさんに言っておいてくれ」


「自分で言えばいいのに」

「照れくさくて」


「仕方ないな、分かったわ。緊張しているように見えたけど、ああいうの苦手?」


「苦手というか、慣れていない」


「そうか。そのうち慣れるよ」

「そうかもな。じゃあ、また明日」

「うん」


 今度こそ、アラン君を見送り、家へと帰る。


 そうだ、今日の薬草、作っておこう。

 キュイン──ポポポンッ!

 薬草を7個つくる。

 あれ、この感じ……。


 試しにもう一個、作ってみる。

 キュイン──ポンッ!

 やっぱり! 


 私はレベルが上がった! 

 テレレッテテー

 さて収納箱にしまって、家に入るか。


 その日の夜

 今日の整理をする。

 手持ちの薬草【18個】

 手持ちのお金【169P】

 依頼の期限【あと5日】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る