第7話

 次の日の朝。

 朝食を食べ終えて、外に出る。


「よう」

「わぁ!」


 ビックリした……。


 アラン君が驚いた顔で

「そんなにビックリしなくても良いだろ?」


「ドアを開けて、いきなり声を掛けられたら、誰だってビックリするわよ」


「あ、そうか。悪い」

「もう……。結構、早いね」


「あぁ、落ち着かなくて、早めに来ちまった。迷惑だったか?」


「いや、私たちも早めに準備していたから、大丈夫だよ」


「魔物の巣窟だけど、場所が分かり辛いから、カトレアさんが案内してくれるって。いま呼んでくるね」


「あぁ」


 玄関にまわり、ドアを開けて「カトレアさーん。来たよー」


「はいはい。今、行くわね」

 と返事が返ってくる。


 後ろに立っていたアラン君に「少し待っていて」


「あぁ」

「昨日の傷は大丈夫?」


「あぁ、お陰様で」

「そう、良かった」


 カトレアさんが靴を履き「おまたせ」


「アラン君、こちらがカトレアさん」


 アラン君が、カトレアさんに近づき、手を差し出し

「アランです。宜しくお願いします」


 カトレアさんも手を差し出し、握手をすると

「カトレアよ。よろしくお願いします」


 あら、カトレアさんとは握手するんだ。


「さて、行きましょうか」

 と、カトレアさんは言って歩き出す。


 アラン君もカトレアさんと肩を並べて歩き出した。

 私は二人の後を付いていく。

 

 家の裏の奥の道は、木が生い茂り、薄暗く、地面には木の根っこが飛び出ていて、デコボコしていた。


 人一人がようやく通れるような細い道を通り、奥へと進む。

 しばらく進むと、少し開けた場所に出た。


 カトレアさんが右を指差し「ここを真っ直ぐ行くと太い木があるのだけど、そこを上に行くと洞窟があるの。そこが巣窟よ」


「目印を付けておくか」


 アラン君はそう言うと、鞘から剣を取り出し、近くにあった木を傷つけた。


 アラン君の剣は三日月のように湾曲したもので、両刃ではない。

 軽そうに見え、扱いやすそうだ。


「それ、なんて名前の剣なの?」

「シミター」

「へぇ……」


 元の世界にも、魔物は居たけど、滅多に会うこともなかったし、武器に興味なんてなかったから、この世界、特有の武器なのかすら、分からない。


「さて、戻りましょうかね」


 カトレアさんは、来た道の方を向くと、そう言った。


「ちょっと待ってくれ」


「どうしたの?」

「静かにしてくれ──物音が聞こえる」


 ガサッ!

 茂みの中からゴブリンが一匹、飛び出してきた。

 小柄で、身長は5,6歳の子供ぐらいだろうか?

 体は緑で、上半身が裸、下半身は布を巻いている。


 ゴブリンが素手でアラン君に殴りかかる。


 アラン君は盾で凌ぎ、「二人とも下がっていてくれ」


 カトレアさんと私は、様子を見ながら、後ろに下がった。


 アラン君とゴブリンは、様子を見ているのか、立ち止まって動かない……。

 さきに動き始めたのは、ゴブリン。


 しゃがむと同時に、太くて堅い木の棒を拾い上げる。

 その隙をみて、アラン君が斬りかかる。


 ゴブリンは動きを読んでいたかのように、ヒラリとかわし、アラン君の土手っ腹にひざ蹴りを入れ、木の棒で、背中を殴打した。


「ゴフッ」


 アラン君がむせながら、倒れこむ。


「アラン君!」


 私がバックから薬草を取り出すと同時に、

 ゴブリンが、棒を振り上げる。


「危ない!」


 カトレアさんが私を押す。


 ゴンッ!

 私が倒れこむと同時に、鈍い音がした。

 カトレアさんが倒れこんでいる。


 どうやら、ゴブリンが投げてきた棒が、どこかに当たったようだ。


「カトレアさん!」


 どうしよう、このままじゃ……。


「ミント! 早くカトレアさんに薬草を!」


 アラン君はそう言うと、ゴブリンの足を掴んだ。


「でも、それだと……」

「俺は大丈夫だ。早く」


 ゴブリンが離せと言わんばかりに、アラン君に蹴りを入れている。

 早くしなきゃ!


 キュイン──ポンッ!

 薬草を複製して、カトレアさんを抱き起こす。


「カトレアさん、大丈夫?」

「うぅ……」


 良かった。意識はあるようね。


「これ、食べて」


 薬草を細かく刻み、カトレアさんの口の中に入れる。

 カトレアさんは少しずつだが、口を動かした。


 次はアラン君。


「カトレアさん、ごめん」


 カトレアさんを引きずり、ゴブリンから離す。

 これでよし!


 さて、どうやって渡すか……。


 仮にアラン君に渡せても、使うまでに時間がかかるし、まずは時間を作らなきゃ。


 引き付けるには、私が囮になるしか無さそうだけど、コボルトのことを思い出すと、やれるかどうか……。


 アラン君はまだ、ゴブリンに蹴られている。

 いや、やるしかない!


 まずは薬草をアラン君の方へ投げつける。

 アラン君、気づいて!


 やるといっても、戦う必要はない。

 時間さえ、稼げれば良いんだ。


 小石をいくつか拾い上げ、ゴブリンに向かって投げつける。

 ゴブリンの体や頭にいくつか当たり、ゴブリンが私の方に振り向く。


「やめろ、ミント!」


 アラン君がそう言うと、ゴブリンはアラン君の方を向き、また土手っ腹に蹴りを入れる。

 アラン君の手がゴブリンから離れる。


 大きめの石を拾い上げ、「何してんのよ、こいつ」

 と、思いっきり投げつける。


 その石はゴブリンの顔面にクリーンヒットする!

 いまのは痛かったのか、ゴブリンはグォーと、雄叫びをあげ、

 こちらを睨みつけてくる。

 

 ドキン……ドキン……。

 きっと追いかけてくるはず。

 

 きた!

 ゴブリンが牙をむき出しにし、凄い剣幕でこちらに向かって走り出す。

 私は二人から出来るだけ離れるため、逆の方へと走り出した。

 

 怖い、怖い、でも助けなきゃ。


「はぁ…はぁ…」


 距離を詰められている気がする。

 チラッと後ろを振り返る。


 しまった!

 切り株に足を取られ、その場に倒れこむ。


「痛ぁ……」

 

 ゴブリンが目の前に迫っている。

 もうダメッ


 思わず目を閉じてしまった。


「ファイヤー」


 アラン君の声がする。


 目を開くと、ゴブリンが何やら、もがいていた。

 アラン君の魔法が命中したの?


 アラン君は、ゴブリンとの距離を詰めると、剣でバツを書くかのように二度、背中を斬りつけた。


 ゴブリンが苦しそうな奇声をあげながら、倒れこむ。

 ピクリともしない。死んだの?


「大丈夫か?」

 と、アラン君が寄って来ると、なぜか視線をそらした。


「うん、大丈夫。何で視線をそらすの?」

「いや……、その……」


 ふと、スカートの方を見てみる。

 なっ! めくれているじゃない!

 急いで戻す。


「ちょ、ちょっと、なに見てるのよ!」

「ごめん」

「……まぁ、いいけど」


 素直に謝られちゃね。それ以上は何も言えない。


「立てるか?」

「うん」


「悪い、俺が不甲斐なかった」

「大丈夫よ。カトレアさんは?」

「後ろから来るはずだ」


 アラン君の後ろを見てみる。

 確かにカトレアさんが歩いてきていた。

 良かった……。

 

 カトレアさんが私達に追いついて「ミントちゃん、大丈夫?」

「えぇ」

「まったく、無理して……」


「ごめんなさい」

「ミント、お前……複製能力が使えるんだな」


「バレちゃったか……バレるのが怖くて、隠していたの」


「いや、謝る必要はない。むしろ、その方がいいと思う。魔法について調べた事がある俺でも、聞いたことがないし、悪人に知られたら、厄介だ」


「ミントちゃん、他に知っている人いるの?」

「うぅん、誰も」


「それなら、ここだけの秘密で済みそうね」

「他にも魔物がいるかもしれない。早く帰ろうぜ」

「そうだね」

 

 来た道を帰る。

 カトレアさんは、先に家に入り、私はアラン君と残った。


「これ、今日の分」


 財布からお金を10P取り出し、渡す。


「いや、受け取れない」

「失敗したから? でも守ってくれたじゃない」


「だけど……」

「分かった。じゃあ半分。これでいい?」

「あぁ」


 アラン君の手を取り、5Pを入れると、ギュッと握らせた。


「はい」

「ありがとう」

「こちらこそ」


「明日は一人で行く。これから行ける日は、帰りにカトレアさんの家に寄るから」

「分かったわ」


「じゃあ」

 と、アラン君は手を上げると、私に背を向け、帰って行った。

 

 さて、今日の分を作るか。

 キュイン──ポポポンッ!薬草を6個、作り、

 収納箱にすべて入れて、鍵をかけた。


 その日の夜

 今日の整理をする。

 手持ちの薬草【9個】

 手持ちのお金【189P】

 依頼の期限【あと7日】

 

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