第6話

 帰り道の森。

 一人の10代ぐらいの男の子が膝を立てて座っている。

 髪の毛は栗毛のナチュラルショート、細みの筋肉質で、革の胸当てをしている。


 左腕には木の盾を装備し、腰に小ぶりの剣をぶら下げているけど、傭兵かしら?

 男の子がこちらに気づき、目が合う……けど、すぐに視線をそらした。


 盗賊だったら嫌だし、少し避けて通るか。

 

 こんなところで何をやっているのかしら?

 ふと、通りすがりに見てみる。


 血?

 太ももから赤いものが見える。


 男の子が私の視線に気づき、「なに?」

「あなた、怪我しているの?」

「あぁ、しくじっちまった」


 私はポケットから回復薬を取り出すと、「これ、回復薬だから使って」

 と、差し出した。

「え? 回復薬って貴重なんだぞ。俺、金持ってねぇし」

「大丈夫よ。貰いものだし」


「そう……じゃあ、貰う。あとで返せって言われても、出来ないからな」

「大丈夫だって」


 男の子は薬を受け取ると「飲めばいいのか?」

「うん、そうだって言ってた」

「ありがとう」


「どう致しまして。隣、座っていい?」

「あぁ」

 私が隣に座ろうとすると、男の子は恥ずかしかったのか、少し避けた。


「君、いくつ?」

「ん? 15」

「へぇー、私とあまり変わらなかったのね。童顔だから13ぐらいかと思った」


「はっきり童顔って言わないでくれるか? 結構、気にしてる」

「あ、ごめんなさい。君、若いのに、傭兵でもやっているの?」


「いや、俺は冒険者になるために修行しているんだ」

「冒険者?」


「そう、世界を見て回りたいんだ。そしていつかは……」

「いつかは?」


「笑われるから、やめておく」

「笑わないわよ」


「……有名な冒険者になりたい」

「へぇー、立派な夢じゃない」

「え?」

「ん?」


「本当に笑わないのか?」

「え? 何で?」


 男の子はフッと笑うと「おかしな奴だな」

「そうかしら?」


「俺はアラン。お前は?」

「ミント」

「ミントか、よろしく」


 私は握手をするため、手を出し、「よろしく」

「いや、その……」

「ん? もしかして恥ずかしいの?」


「ちげぇし」

「クスッ、まぁいいわ」


「傷はどう?」

「おかげで、治ったみたいだ。凄いな」


「良かった。ところで修業って言っていたけど、どんな修行しているの?」

「この辺はまだ、魔物が出るから、実戦している」

 お願いしたら、魔物退治してくれるかな?


「──ねぇ、お願いがあるんだけど、私ね、ここを真っ直ぐ行った所にある家に、居候させてもらっているのだけど、そこのカトレアさんが、魔物の巣窟があって、困っているの。1日10Pぐらいなら払えると思うから、退治してくれないかな?」


「いいよ。修行のついでだから、いつ終わるかは分からないけど」

「本当! ありがとう」

 アラン君の両手をガシッと掴む。


 アラン君は視線をそらし「場所はどこ?」

「場所は聞いてないから、分かったら連絡する。どこに住んでいるの?」

 と聞いて、手を離す。


「クレマチスの町。連絡はいいや。明日、ミントの住んでいる家に行く」

「そう? 分かった」

 アラン君に手を振ると、帰り道を歩き出す。


 家に着くと、家の裏に行き、収納箱を降ろした。

 複製用の薬草一個をバックに入れ、あとは全て収納箱に入れる。


 これでよし!

 台車を玄関の横に移動さえると、家に入った。


「ただいまー」

「お帰りなさい」

 と、カトレアさんが返事をして、近づいてくる。


「ねぇ、カトレアさん。カトレアさんが前に言っていた魔物の巣窟ってどこにあるの?」

「魔物の巣窟? そんなの聞いて、どうするの?」


「近づかないようにと思って」

「あぁ。じゃあ明日、近くまで案内するわね」

「え、大丈夫。口で教えてもらえればいいから」


「そうは言っても、分かり辛いところにあるのよ」

 どうしよう……正直に言うか?


「えっと、ごめんなさい。私、冒険者見習い?の男の子に、魔物退治を依頼して、明日、教える約束しちゃったの」


「まぁ……もし私のためなら、大丈夫だからね。それより自分のことを優先していいのよ」


「うん、でも恩返ししたいの、お願い。それが済んだら、自分のことも、しっかりやるから」


「仕方ないわね」

 と、カトレアさんは言って、背伸びをすると、

 私の頭の上にポンっと手を乗せ「まったく、優しい子だね」

 と、言って頭を撫でてくれた。


 カトレアさんは撫でるのをやめると「お金は大丈夫?」

「うん、大丈夫」


 優しいのは、カトレアさんも一緒でしょ。

「そう。何時に来るの?」

「あ、聞いてなかった」

「じゃあ、少し早めに起きて、待っていましょうかね」

「うん」


 その日の夜

 今日の整理をする。

 手持ちの薬草【4個】

 手持ちのお金【194P】

 依頼の期限【あと8日】

 手に入れもの【収納箱】



 少しずつだけど、良い方向に向かっている。

 恩返しが終わったら、少し寂しけど、迷惑かけないように、家を出る事も考えなきゃ。

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