第72話 アクリスは3番目に飲み込まれたの
「………… あは、ぁ…… なんですかぁ、ドラすごいですねぇ? 満ち溢れてますよぉ〜」
チャリスのペラペラで萎びていた身体には、血色が戻っている。膨らむところはきちんと盛り上がり、心地よい揺れを演出している。チャリスのしぐさに合わせてボロボロになった紫のローブから垣間見える空間が周りを惑わしていくようだ。
まぁ…… しかし、元気そうでよかった。というか、普通の元気だ……
「チャリっちー! お帰りなさいっす! そして、早々悪いんすがねー…… 今のもーーーぅ一回やってみないっすかね?」
キュリオは、考える仕草をしながら、天をかけるクラゲ達に見とれているチャリスの胸へと螺旋状の杖をめり込ませ、イタズラな笑みをのぞかせている。
ひでー。
キュリオを見てると、さっきまで、真面目に考えていた自分がアホらしく思えてくる。
(カメーラ、オブスクーラ、燃え盛って盛り上がるのー)
クラゲ達の足にぶら下げられ、ブランコにでも乗ってるように空中を行ったり来たりしているアクリスは、自分のゴーグルを抑え続けている。
アクリスの想いを反映しているであろう、クラゲ達を通して巡っていくテロップは少しずつ小さく、ゆっくりになってきてはいるが、アクリスがゴーグルを隠そうが否応無しにその想いはダダ漏れしているようだ。
「もう一回…… ですかぁ? また出し切っていいんですかぁ?! もう一回…… あぁ…… はぁ'あ'、至高ですぅ〜」
「…… 出し切る? 何を? 魂っすか? あり、これはヤバいやつっすかね…… ウチのせい?」
チャリスは、赤い瞳孔を広げゾクゾクさせ、どことなく一点を凝視している。そばに落ちていた星の散りばめられた杖を拾い上げると、高々と振り上げ、笑顔という名の狂気をあたりに振り撒いていっている。
…… しかし、これはどういうことだろう。
観測しているとチャリスは、死んでることを覚えていないようだ。認識していない? それに、いつもが異常だが、それ以上に異常だ。
アクリスの魔法は、記憶や認識、もしかすると源泉にまで影響でもしているのだろうか。
(…………)
アクリスの方を見ると、キュリオの近くに落とされている。また無表情になっており、ゴーグルを手で覆ったまま、包帯の巻かれた顔を空に向け、グテッと寝転んでいる。
もう、クラゲも少しずつ数が減っていく。
その横で掲げられているチャリスの杖は、赤黒く光り、辺りにプラズマを迸らせていっている。
確かにこれはやべーが迸ってるかも……
「あふぇ♪」
チャリスを中心に空間が歪む、漆黒が蔓延する、包まれていく……
チャリス、キュリオ、アクリス、一様に、相対的に、波打ち、引き延ばされ、漂っている。
いろんな感情、認識が流れ込んでくる。
ミニヴァンさんの視線を、想いが、アクリスへの愛が、覚悟まで入り込んでくるようだ。
様々なものと同化するような感覚を受けながら、光が遠のいていくのを感じていった。
◇◇◇
あぁ…… ん、そうだ。そうそう、それでこの後、プルルと出会ったんだったな。
っと、そうだ、むぉお、引っ張ら…… なんなんだこれ、まだ24時間は経っていないはずなのに…… 早く服の魔法を解いて蘇生を、天にのぼっちまうぅぅ。
(大賢者様、待っててなの。綺麗さっぱり無くしてあげるの)
(チョコンとコチンと、コチンコチン、レクルーダン)
様々な色に点滅するクラゲ達に群がられ、俺のローブに織り込んだ魔法は解除されていく。
なすすべもなく、生まれたままの姿として、顕現されていく。天から引っ張られる感覚を受けながら。
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