第71話 アクリスは止められないの

 先程までの一面ドロドロと化していた地面、黒く歪んでいた空間が嘘のように、辺りはパレードのようになってきている。

 これがアクリスが認識している世界なんだろうか?

 アクリスは、言葉であまり発しないだけで、脳内は実にパラダイスなのかもしれない。


「次から次へと…… 変化なぞ不必要なものじゃろうに」

「確かに怠惰になる暇などなさそうだ。まぁ、それもあんたの強要の結果とも言えるんじゃないか?」

(アーテル、アーテル、トッロトロなのー)


 アクリスは、ゴーグルを両手で押さえつけながら、クラゲ達を介してバレーボールのように弾み、だらけた笑みを垣間見せている。

 アクリスの中のいろんな想い、今まで押し込めていたものを吹き出していくように、クラゲ達を通して、縦横無尽に言葉のテロップが空一帯を駆け巡っていく。

 チャリスもキュリオもそうだったが、抑制され続けたからこその反動で到達するものがあるのだろう。

 無理やり引き出された欲求なんて、依存に近い、破滅に向かうだけだし、持続的ではない。

 アクリスの中は、感覚が制限されているからこそ、俺らには到達し得ない多様な認識で溢れている。きっと、それが本人も抑えられずに飛び散ってるんだ。


「もうちょっと、見てたい気持ちもあるが、無知なんてもんは終わらせてから浸ろうと思うよ…… まぁ、汚穢おわいが好きなんだ、微生物とかいいんじゃないかな」

「魔王様……」

「ふっ、こんなところにいる時点で忠誠も何もないだろうに。それにお前ら、気合わなそうだけどなぁ。まぁ、終わりにはならない、ディフるようなもんさ」


 俺は、デウスルトの頭上から地面まで剣を振り下ろす。

 切り口から白い光が霧散していき、地面へと降り注いでいく。


「今後もこの地の水への貢献は続けていけばいい」


 空を確認するとクラゲ達が彩る空の隙間から、暗黒の雲は見えるが、まだ遠くの方で波打っていそうだ。

 おかしいな、間に合わなかった可能性もあるかと思ったが、結構余裕そうだ。

 繰り返すうちに、発動まで時間がかかるようになるとかあるんだろうか。


「んー …………」

(オリーゴー、オリーコー、ぬっちゃめっちゃと)


 これは…… なんの記憶も、そういった気配的なものも感じなかったが、取得できるデータを見てみれば、これは一体、面白い……


「ウィヒヒヒ、いたっす、きたっす、これっすね、あぁ…… いいっす。チャリっち、アンコール! ダメっすかねー!?」


 キュリオを見ると、瞳をギンギンにビスビスさせ、頭の上から飛び出るハート型のアホ毛も天を貫かんとするようにおっ立っている。

 そして、その視線の先で、ボロボロになり紫色に染められたままのローブを着たチャリスがむくりと起き上がっていた。

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