第70話 アクリスは楽しくなってきたの

 手に持つ杖の形状を、剣へと変えていく。

 懐かしさと切なさ、色々と舞い戻ってくるな。

 俺も怠惰だった。無知だし、無知を喜びすぎた。

 人は生き返らせても、死んだ時の苦しみや悲しみまでを消せるわけではない。結局のところ俺は、外面の部分でしか、源泉的な部分まではわからないのだから。


「その忌々しい色の剣…… おぬし…… 魔王様を消滅させた日の剣、ゆ――」

「へー、お前、あの場にいたっけか? だがそれ以上は語るな、禁忌にやはりなってる。そんな不確かなことに頼るのはやめよう」


 デウスルトの少し上辺りが煌めいている。そこから、ピンクの小さいとんがりが見えているが、煌めきと共に消えていっている。

 俺が勇者だった事実に対して、何らかの魔法か禁忌が発動している。

 しかし、チャリスの育ての親代わりのクピディに、デウスルト、こいつらは、メルヘン化はされてるのに、俺が勇者であった事実は知っている。

 アスペラトゥス発動での結果の変化は、アスペラトゥスによるものと他の要因のものがあるのかもしれない。


「ウィヒヒ、そっちも面白そうっすが、ウチは、ウチの決めた興味に全力を注ぐっすよ」


 キュリオは、萎びたチャリスの側に螺旋状の杖を立てると、構築式が周りを駆け巡っていき、魔法陣を形どり、背面に人体図の翼を広げるように展開させていきながらイタズラな笑顔を口を全開にしていた。


(…… んん、繋がればいいと思うの)


 アクリスからは頭が大きなクラゲ、触手が棘になっているクラゲ、マダラ模様に光るクラゲ、大きさも形も様々なクラゲ達が増殖し、俺らの周りも飛び交っていく。

 アクリスの顔も覆われた目元にある唇は笑ってるように見える、てか、半開きの口からはよだれが垂れてるような……

 頭上では次第にたまに不気味に光り輝きながら波打つ暗黒の雲が頭上に押し寄せようとしてくる。


「こりゃスゲェ、今のデータからでも何が起こるのか想像もつかないよ。楽しみたい気分だが、アスペラトゥス発動まで、もう時間もないようだし、そろそろ、終わりにしようか」


 俺はデウスルトととの距離を一気に詰め、切り掛かった。

 デウスルトは、切った側からバシャンと紫色の液体を撒き散らしながら、崩れていく。


「や、ややめんか」


 俺は飛び散る紫色の液体を剣を回転させ、普通の水へと変換していく。

 泉の奥では、デウスルトがヌポッと飛び出してきてる。

 デウスルトは、自分の魔力を交えた水を媒介すればある程度のことができるようだ。俺らの欲求にまで作用させてきたように。


「はは、知ってたよ。でも、この水はもう上書きしちまったし、詰みでいいのかな?」

「やめ――」


(テラコッタ、テラコッタ、真っ赤で真っ赤でドッロドローー)


 不気味に暗くなってきている中、色とりどりのクラゲ達が、辺りをまるでナイトクラブのように颯爽と彩りライトアップさせていく。

 いろんなクラゲ達に、テロップのように文字が映し出されながら、アクリスは、クラゲの上をトランポリンのように転がり飛んでいた。

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