第68話 アクリスは認識するの

 ところどころ、漆黒に揺らぎ歪み、その内側にある俺たちも、少なくとも俺の視線からは、皆歪んで見える。

 そして、チャリスからこちら側、先ほどまで紫色に染め上げられていた、大地、人は、元の状態に、ミニヴァンさんに至っては、元気そうに生き返っている。

 俺の蘇生魔法はまだ途中だったはず……

 これは…… 起きてたことが、事象がなくなっている?


「面白いっすねー、なんでみんな揺れてるんすか?」

「あふぇ、壊しても元に戻っちゃいますぅ」

「ワシの行い…… ワシが動いた結果を…… 繰り返せと言うのか?」

(色…… なくなり全てを…… こんなやり方があるの)


 アクリスは、静かに座り込んでいる。その周りを蠢くクラゲたちは様々な色を発し始めている。

 アクリスには、どう感じられているんだろうか、視覚的には、無かったことのようになっている世界は、変わってるように見えるんだろうか。


「あはぁっ、アクリスちゃんはとっても魔力が綺麗なんですねぇ」

(…………)

「悲しみも、苦しみも、悔しさも、すべて愛せばいいんですよぉ」

(…… 綺麗な色なの)


 チャリスは、アクリスとはそうやって喋っているのか、魔法でのボディランゲージみたいなもんなのかもしれん。

 まぁ、正直伝わってるかはわからないが、アクリスには何か刺さるものがありそうだ。

 ミニヴァンさんも、アクリスを見つめる瞳は、柔らかくなってきているように感じる。


「こりゃ、一体、何が起こってるんだい? アクリスのこの反応、魔法を初めて教えた時を思い出すよ」


 アクリスの周りで結界を張っていたクラゲたちは、さらに色付き光り輝き、座り込むアクリスをバレーボールのようにポンポンと空中で跳ねさせている。

 正直、何が起こっているのかは俺もよくわかっていない。

 だが、一つ言えることは、魔力が上がる時、それは欲求の質に左右される。

 チャリスは、デウスルトにより無理矢理欲求を引き出されていた。

 その反動とも言える結果なのかもしれない。


「面倒じゃ…… 留まることが美しかろう。わしのためにそれができないのなら、汚穢となり糧になるべきじゃ」


 デウスルトは、重くぬちゃっとした体を飛び上がらせ、チャリスの近くにべちゃっと降り立った。

 チャリスの頭を掴むと、再び叫び声を上げ飛び上がり、泉に自らの身体ごと叩きつけ、飛沫を撒き散らしながらぐるんと大きく振り回した。

 掴んでいたものを高く掲げ、紫色の臭気を勢いよく吹き出して口を裂けさせながら笑い出した。

 デウスルトに頭を掴まれているチャリスはだらんとして左右に振り回された勢いのまま揺れている。

 目から、口から、あらゆるところから紫の液体が溢れ出し、泉に垂れ流されていく。


「ディアディアディア、これでまだ途上、最上ではないが、わしのための怠惰よ」

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