第67話 アクリスは初めて知るの

 俺は、ミニヴァンさんへと杖から雲を吹き出し包み込んでいく。

 もくもくとしながら、人型に収縮していく雲を見て、キュリオも四肢を紫の液体で濡らしながらぬちゃぬちゃと近づいてくる。


「見えないものの回復…… へーそうするっすか」

(この色は…… 変えても変わらない、この村の色なの……)

「? そうだったとしても、やらない理由にはまだならないよ」


 キュリオは、俺とアクリスの間にずいっと入ってくる。瞳をビスビスさせ、白い修道服を少しずつ紫色に染められながら、魔法に魅入っている。


「ウィヒッ、そんなことより少しずつ、知識が組み換えられてくるっすよ、アクリっちもほらっ!」

(…… すぐ戻る、きっと、いつもの色に戻るのに……)


 キュリオは、俺の杖におでこがぶつかるんじゃないかというくらい、口角を上げながら乗り出している。

 こいつは、いつだってそう、何かに興味を持つと、それしか見えなくなる。

 アクリスは紫色に輝くクラゲたちの上で、背中を丸め両手を腿の間に置いてぺたんと座り俺たちのところに寄ってきた。

 寄ってくるクラゲたちに触れると、ピコピコ動いて色を変えている。

 俺にもデウスルトの液体が徐々に滲んでくる。今の状態は怠けてることになるのか……


「ディアディアディア、皆はわしのためにいる。他人による他人のための行動などそれは怠惰じゃ、自分のための他人の行動こそが――」

「あぁ、ぁ、ふぇ、えぁ、ぇ」


 声の方を見ると、歪んでるように見えるチャリスがトプンと降り立ち、周りを見渡し、ゾワゾワした瞳を俺たちに向けてくる。泉に向けていた杖の先をこちらに向けて――

 チャリスの辺り、光が溢れ出してくる。

 なんだ、眩しい、見えない……


「あはぁ、はぁ、あぁ、ぁ」

「アァ、ぁ、クリィ、ぃ、スちゃあぁ、ぁん」

「綺麗、れぃ、です、す、ねぇ、えぇ、ぇ」

 ………………


 次々とチャリスの言葉が流れてくる。


「魔、ま、ぁッッッキュ、ぅウゥゥゥン、ン、ん! !」


 魔キューン、魔キューン、魔キューン、魔キューンと木霊してるかのように、音が多重にやってくる。

 一体、何をしてるんだ。

 白い閃光の中、照らされるアクリスは、チャリスの方を見ている。


(こんな…… 何もないし全てがある…… こんな色が、あるの……)


 しばらく経つと、一面を覆っていた光が徐々に弱まってくる。目が慣れてくると、チャリスとデウスルトがいた所から扇状に紫色に染められていた地面は、何事もなかったかのように元の状態に戻っている。

 んん、アクリスも、キュリオも少し歪んでるように見える。

 何だありゃ……

 周りの景色の中には、ところどころくり抜かれたかのように漆黒の揺らぎが見えている。

 海苔でも舞ってるみたいだ。

 これは、面白い、初めて見る事象だ。


「なんだい…… アクリスは?」


 そう言いながら、ミニヴァンさんはむくりと体を起こしていた。


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