第66話 アクリスにはまだ色が見えるの
村長のビスキスさんも遠くで倒れており、村の方も紫色に染まっていくのが見える。
デウスルト様のところに留まっていたものが解き放たれたかのように、村一帯が染まっていく。
「怠けていいのはわしだけであるべきじゃ。怠けるためのモノに翻弄されるくらいならいない方がよかろう。ディアディアディア」
(…………)
キュリオは、ぬかるむ地に膝をつけ、ネバネバした液体を手に絡ませながら、ミニヴァンさんの頬に触れている。
小さな肩を落とし、ハート型の癖っ毛を揺らしながら、ミニヴァンさんの顔から液体を拭い取っている。
「またこれっすか、いくら回復したって変わらない」
「青き子、キュリオだったかの、悲しむ必要もなかろう。怠ければ後を追えるんじゃから」
(…………)
「アクリっち…… ミニヴァンさんは死んでるんすよ」
キュリオは、チャリスにクラゲを放射し続けるアクリスに向かい魔法を送り語りかける。
キュリオの螺旋は弱まっている、徐々に俺たちにもデウスルト様からの液体が視覚的にも近づいてきている。
(…… そこにいる、色は見えてるの)
「ディアディアディア、そうじゃろう、
「うっさいっすね、死にたいってことっすか? 相手のことを顧みずにあんたのお花畑を強要するんじゃないっすよ」
アクリスは、淡く光るクラゲたちを、ミニヴァンさんの胸辺りに寄り添わせている。
「アクリス…… お前にとっては死んでないってことなのか?」
俺もアクリスに、魔法を送る。蘇生魔法は、死後24時間くらいは可能だ、アクリスには離れつつある魂的なものでも見えている、という表現も変だが、感じられているのだろうか。
「俺が蘇生魔法を試みてみよう。キュリオも見とくといい」
「蘇生が可能だって言うんすか? 戦争の時、ウチがいくら治そうとも誰も生き返ってくれなかったっすよ……」
「認識を改めればいい、もちろん肉体がなくなってたら無理だが、肉体を回復するだけじゃ生き返らない。ただ、俺のできる蘇生魔法も完璧ではないよ」
「完璧でなくても、可能性があるなら興味はあるっすよ」
「死亡してる場合、傷とかじゃなく、その『ヒト』自身を、離れつつある魂的なものを再度定着させないといけない、これは対話に近い。だから、蘇生する人のことをある程度理解できてないと定着してくれないんだ」
「知らない人じゃ無理ってことっすね」
「俺は、ミニヴァンさんとは、まだ、数日の付き合い、おそらく蘇生魔法の条件を満たしていないだろう、だから、成功率を上げるならそこはアクリスに担ってもらわないといけない」
(…… 私は干渉しないの)
「は…… 何言ってんすか?」
(…………)
「可能性があるのにっすよ?」
アクリスは、自分のせいで悪いことが起こるとずっと言っていた。
「干渉しないと、関わらないと、ミニヴァンさんは生き返らないかもしれない…… それでもいいのか?」
(…… 私が関わっても何も変わらない、私の思った色にしようとしてもむしろ悪くなるの)
「なんでそう思い続けるのか、俺にはわからない。だが自分の思いを自分の中だけで循環させないでほしい。もっと関わってきていいんだ。今なら俺らもいる。アクリスの思った色に染めればいい。こんな足拭きマットみたいな顔のやつの色なんて、塗りつぶせばいいんだ」
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