第64話 アクリスはクラゲで埋もれるの

「ほぉ、アケアケアケ、どんな汚穢おわいが湧き出てくるのじゃ」

(…………)


 アクリスの寝そべる周りで結界を形作るクラゲがたまに発光している。包帯の巻かれた顔をデウスルト様に向け、その無表情な顔が時折照らされている。

 それに比べチャリスは、泥人形のようにボタボタ泥水を垂れ流している。

 さて、この位置ならいけるだろうか、チャリスも窮屈そうだ。

 もうドンチャンしてるわけだし、チャリスも自由にしていいだろう。


「アケアケアケ」

「んんん♪」

(…… また濃くなるの)


 デウスルト様は、また水分を介して、チャリスの脳を汚染していっているようだ。

 アクリスは、姿が見えなくなるほどに結界の中でクラゲを発生させ続けていっている。

 溢れたクラゲ達が、結界から飛び出しチャリスへと降り注いでいる。

 俺は、ぬかるむ土から飛び上がり、雲をチャリスのところまで置き石のように配置し、それを足場にして蹴り飛ばしながら、チャリスの元へと向かっていった。

 デウスルト様が張り巡らしている水の結界は、クラゲ達により少し崩壊しかかっているところがある。俺はそこから杖でこじ開け侵入し泥人形になっているチャリスと対面することができた。


「よぉ、チャリーっす!」

「あへぁ、壊れてくださいよぉ?」

(…………)


 一緒に侵入してこようとするクラゲ達を先ほど足場にしていた雲で包み込み制止させる。

 俺は泥に塗れた赤い前髪をどかし、チャリスのおでこへと杖をかざしてみる。

 チャリスは、身体を震わせ、握る杖を中心に俺もチャリスも覆うような淀んだ黒球が展開され、辺りをプラズマが迸っていく。

 ふむ。見えるもの触れれるもの知ってるものなら、今の俺でも対処はできそうかな。


「あふぇ……」


 閃光と爆炎と砂煙が入り混じっていく中、チャリスと目が合う。

 不思議な感覚、源泉が見えるかのように、まったく、憎んだり、中毒になったり、本当厄介でほっとけないやつだ。

 砂煙が晴れて行き、泥まみれだった赤髪をカピカピに逆立て、チャリスの姿が徐々に見えてくる。


「ふっ、クピディの時も思ったが、魔族はどうして自分の欲求を押し付けたがるのか。無理矢理引き出された欲求なんて、たかが知れてるのに」

「ふぅぅぅ、リテラ様? ボカンですか? 嬉しそう…… 魔法が漏れ出ていますよ♪」

「チャリスも溢れるだけ好きにするといい」

「あはぁっ、本当ですか? なんだかすっきりとってもみなぎってきます。我慢しなくていいってことですよね? みんな一緒に壊れてくれるってことですよねぇ???」


 チャリスは、キョロキョロと辺りを見回しながら、杖に体を纏わりつかせ宙に浮いて行く。

 瞳がゾワゾワしていく、奥底から深淵が挨拶にでもくるように。

 杖は強く発光し、チャリスのいるところを黒く染めていく。チャリス以外は何も存在しないかのように。

 ゆったりと動くホライズンが周りに形成され、その漆黒の中心でチャリスは歪み出す。

 チャリスは、口を動かしているように見えるが、その声は届いてこない、歪な半笑いがさらに歪んで見える。

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