第63話 アクリスは寝そべってるの

 デウスルト様は、背中まで開きそうな口を開け、アケアケと笑っている。モフモフした毛は、前よりも水気を含み、もはやその面影もなく体に張り付き、その顔をより滑稽に見せている。

 メルヘン化というよりホラー化だ。

 しかし、ここにはワームホールできたので、細かい位置まではわからないが、星の位置を見ても、植物を見ても、王都からは離れていそうだ。チャリスは、アスペラトゥスから影響を受けてる可能性があり、クピディのプレートからもそう書かれていた。

 そう考えると、メルヘン化はアスペラトゥスとは関係のない、もしくは別の要因が絡んでいる可能性もある。


「この、うぬっ、ウィヒッ、面白いっすね、次から次へと……」


 キュリオは様々な形状、色の螺旋構造を、猛スピードで眼前に展開し打ち込んでいる。

 デウスルト様から向けられてきているだろう攻撃は、毎回同じではないようだ。面倒とか言いながら、見えないところではやることやってる陰湿なやつ。

 テスト前、勉強してないしとか言いながら、ちゃっかり満点とるようなやつだろう。

 キュリオは、眼前の光景を見ながら、自分や俺に螺旋を打ち込んでくれている。

 ありがたいんだが、もっと緩やかにしてくれないとこの刺激、俺の頭はおかしくなりそうだ。

 しかし、デウスルト様は、大気、人の体内、飲料水など、多岐にわたった水への影響を見せている。

 ただ、ここコチャバ村の水問題は改善していない。それもありデウスルト様への依存度が上がり、抜け出しにくい状況になっているんだろう。


「デウスルト様、あんたはこの力を持っていながら、なぜこの辺りの水を綺麗にしないんだ? 自分の周りの水だけ…… なのに、汚物を好むようなことも言っている」

「……」

「なんか、喋ろーぜ」

「うるさい…… うるさいんじゃ。汲み取るとお主も言ったろう? 面倒、死にたくなる、ストレスじゃ」

「デウスルト様、その通りでございます」


 声の方を見るとミニヴァンさんは、土下座に近いポーズで、ぬかるむ地面に額をつけている。

 デウスルト様は、やはり面倒とか言いながら、やることはやっている。

 しかし、水が干上がってくれればとも思ったが、その期待も薄そうだ。チャリスの獄炎のような魔法が飛び交ってるにも関わらず、泉には、さざなみ一つ立っていない。

 小便小僧から放たれ落ちていく水からさえも。


「ふむ、そうじゃろう。お主らの考えに耳を傾ける必要がなぜある? 結果が勝手にわしに集まってくればいいんじゃ。わしを動かそうなど、甚だ、そう甚だじゃ」

「だから、この辺り一帯を水不足に見せかけていると?」

「それは大層な物言いじゃのぉ。しかし、わしの考えるところではない。お主らの醜さ、醜態、粗相、信じるものに縋るが良い」


 ――どすっ。

 デウスルト様との間に勢いよく落ちてきて、ぬかるんだ土をそこら中に弾け飛ばしてくる、そこには、土に両手を埋ませ、赤い髪から泥水を滴らせているチャリスがいた。

 チャリスは笑みを浮かべ見上げている。四方にクラゲを浮遊させ、球体の中で寝そべるアクリスに見下ろされながら。


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