第62話 アクリスは穢れ合うの

「この村は王家からも見放された。デウスルト様、あなたへの忠誠はきちんと続けてきたはずですよ……」


 ミニヴァンさんは、デウスルト様から目を逸らし、思い描く認識を拒否するようにアクリスを見つめている。

 ミニヴァンさんの真意、それはアクリスのためなのか、娘さんのためなのかは結局俺には本当のところは分からない。

 さて、どう動いたもんか。


「もっと、汚れ、醜く、穢れていくが良い、ワシが介するまでもなくな」

「…… 勝てばいい、きっとそういうことなんでしょう」


 水を含んだローブをずっしりとさせ、濡れた髪の間から、妖艶な笑顔を垣間見せ、チャリスは泉の水を杖で掻き回している。

 まぁ、チャリスがかき乱してるところは大いにある気は…… する。


「ミニヴァン、お主もワシの魔力が抜けておる。娘を見習うがいい。汲み取るんじゃよ」

「それは……」

(移りゆくの…… )

「アクリスとチャリスよ、ワシの手を煩わせるな。2人で早々とじゃれ合うが良い」

「あふぇ…… ぇ♪」

(この色が……)


 アクリスは手首の腕輪を光らせ、両手をゆっくり挙げていく。足元からは色とりどりに発光するクラゲが噴き出し、辺りを浮遊しながら互いに触手を伸ばし合って結界を形成していく。

 ミニヴァンさんは、クラゲに引っ張られ、俺らのところまでなかば引きずられながら連れてこられてきた。

 アクリスがいたところには、既にチャリスの笑い声と共に黒球がプラズマを迸らせながら降り注いでいる。

 さっきのピスキスさんの時はどうかと思ったが、断然威力が違う。

 チャリスにはまだチャリスらしさがきちんとありそうだ。


「アクリス…… アクリスの手を穢すのは1度だけでよかったはずなのに……」

「ミニヴァンさん、若輩者が言うことじゃないが、だいたいそんなもんだろ。俺らがわかることなんて限界がある。数百年生きてそうなデウスルト様でも、その1人の知識なんてたかがしれてるんだから」

「何を言ってるんだい? 結局はあんたらが起因だったんじゃ、さらに問題ごとを増やさせるつもりなのかい?」

「未来なんてわからない、意図しないことは当然のように起こる。積み重ねだよ、集団知、教養があるから自由になれる、俺らは可能性を信じれるんだ」

「だから、何を言って……」

「まだ何も終わってない、増やすも何も、勝手に決めつけるな、悲観すんなってことだよ」


 ミニヴァンさんは、口が半開きだ。

 その背後では、土埃の中時折発光するクラゲがうごめき作る結界の中でアクリスが寝そべり浮かんでいっている。


(覆われていく…… 消していくの)

「アケアケアケ、さて、どんな汚物が出来上がっていく?」

「さぁ、皆さん壊れましょう♪」

「ふぅ、デウスルト様、汲み取ろうじゃないか。その小汚い源泉を」

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