第61話 アクリスは置かれたの

 ピスキスさんは、悲鳴を上げながら木陰の方へとそそくさと走っていってしまった。


「よいぞよいぞ、青髪の子も、どうじゃどうじゃ? アケアケアケ」

「あは、一緒に壊れないんですかぁ」


 チャリスは、ピスキスさんを目で追いながら、小便小僧からデウスルト様に浴びせられる水へ体を擦り付けて浸っている。

 デウスルト様の歪な魔力も上がっていっている。俺らのところまでその歪な雰囲気が広がってくるかのように。

 おそらく、デウスルト様の魔法は構築式を使わずに水を媒介としているようだ。魔力を含んだ水が体内に入ってしまえば、何らかの不都合は生じてくるだろう。俺もそうだったし、村の人たちの異様な信仰にも関連してる可能性がある。

 この歪な魔力の迫り来る感じ、空気中の水分を伝ってきてるとすれば厄介だ。結界もその媒体が小さすぎれば透過させてしまう、密閉にしようと密度を上げすぎればそれはそれでやりづらい。だが侵入を許せばまた体を風船のようにされてしまうかもしれない。


「ウィヒヒ、あいにくウチは、誰かのものになるなんて興味はないっすよ」


 キュリオを見ると、杖を首の後ろに抱えもたれながら、自分の頭に光る螺旋構造を突き刺し立っている。

 そして、俺の頭上にも光る螺旋が配置され、てる?

 俺にもしてくれるってこ――

 光のネジみたいなものが見上げてた俺のおでこに突き刺さり、回転しながらめり込んでくる。

 むぽぽっ。なんか脳みそ触られてるような、自分では触れられない場所がこそばゆいような…… そこはぁ、□○△☆◆◉■!?


「アケアケアケ。そうか、そうなのか。お主も大丈夫なんじゃのぉ。なんと、だるいことよ」

「大丈夫じゃないっすよ。違和感はマックスっす」


 確かに、俺にとっちゃ、違和感に違和感を被せられてるようなもんだ…… まぁ、お陰様で、クセになりそうな不快感以外は今のところ問題はなさそうだが。

 それにしても、お主も…… か? この中で、デウスルト様の影響を受けてなさそうなのは、キュリオの他には、アクリス、ミニヴァンさんになるだろうが。


「デウスルト様…… アクリスのことをお呼びだったんでしょう。そのものの勧誘の前にまずはアクリスへ婚儀のご指示をいただければと」

(…………)


 ミニヴァンさんは、デウスルト様に歩み寄っていき、抱えていたアクリスを、泉の淵にそっと立たせてあげている。


「ふむ…… そうだったな。チャリスの相手をしてやるがよい、アクリスよ」

「デウスルト様…… それは一体? 戦えということですか?」

「アケアケアケ、汲み取るがいい」


 デウスルト様は、大きな口を歪め、一度も洗われたことのない油まみれの換気扇のような歯をのぞかせている。

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