第60話 アクリスは持ってかれてるの

 ミニヴァンさんは、ボーッとしてるアクリスを抱きかかえ、俺のことを睨みつけている。


「アクリスのは…… あれは防げるものなのかい? もしかして……」

「…… 色を勝手に決めてほしくなかっただけだよ」

(色が包まれていくの……)

「ウィヒヒ、ウチではできないやり方っすねー」

「ミニヴァンさん、あんたの想定外のことはいっぱいあると思うよ、だからこそ、もっと楽でいいんじゃないか」

(色が激しくなっていく……)

「まさか、デウスルト様も……」


 アクリスはミニヴァンさんの腕の中でハッとしたように俯いてた顔を上げ、隠された目を部屋の奥へと向けている。

 なんだ?

 窓から閃光のような光が入ってくる。


ズドォーーーオォォォン。

 地面が震え轟音が響き渡ってくる。

 今は夜なのに、こいつは……


「…… チャリっちっすかね」


 キュリオは、両手を後頭部で組みながら、窓を眺め困ったような顔をして呟いている。

 あぁ、これは、おそらくチャリス……

 そして、そうか、魔法を使ってしまったってことか。


「ゆっくりしすぎたな…… あっちの様子はどうなってるんだ」


 扉を開けて外に出ようとすると、奥の方から村長のピスキスさんもこちらに歩いてくるところだった。

 

「おやおやぁ、リテラ様、お目覚めでしたか。ちょうどよかった、まさに今連絡がきましたよ。アクリスをデウスルト様がお呼びのようです。ついにこの時が来ました。お祝いをしてくれますか?」


   ◇


 川沿いを歩き、泉の近くに来るとデウスルト様の周りには水で作られた結界が張られているのが見える。

 さらにその周りには、闇世の中、さらに深淵な漆黒の球体が複数散りばめられており、周りをプラズマが行き交っている。

 チャリスは、水をしたらせ泉の中で佇んでいる。

 デウスルト様は、ニパッと歪な笑みを浮かべながら、チャリスに魔力を含んでいるだろう水を浴びせ続けている。


「これは、よいぞよい、もっと出し切るんじゃ、もっと悍ましく醜く穢らわしく、出して出して出し切って。そうすれば、きっと素晴らしいものが出てくるんじゃろうなぁ。しかし、面倒…… ワシが頑張るのはちと違う」

「ンファー、デウスルト様、お連れしま――」

「あはぁ」


 チャリスは、ゾワゾワする赤い瞳をこちらに向けると、柔らかな唇の粘着が溶けたように少しずつ口を広げ歪んだ笑みを形作っていく。


 ピスキスさんに、周りにあった漆黒の球体が降り注いでいく。


 パキ…… ズド…… バキキ。


「ひはぇっ、な、なななな、何を!?」

「あふぇ? 壊れやすそうでしたのにぃ」

「チャリス……」


 俺は、チャリスの攻撃で壊された結界をピスキスさんにかけ直していく。

 チャリスからは、チャリスの魔法からも濃厚なデウスルト様の魔力がだだ漏れている。

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