第59話 アクリスはたまにゴーグルを隠すの
何も良くならないとは、それはミニヴァンさんが話してくれてた
それは不可抗力だろう。
そもそも、何か問題があったとして、何か一つが原因であるわかりやすい構図なんてそうそうない。何かが悪いならみんな悪いんだ。
「何か嫌な出来事があっても、それは全部が全部アクリスのせいではないよ」
(ここの村の人たちは、みんな同じ色をしてる。それを変えるとダメなの)
「それはその人の問題だろう。きっかけくらいしか俺らは与えられない」
(あなたの色は初めてみる…… 不思議な色、誰よりも濃くて幾十のモヤがかかってるような……)
アクリスは、口を少し開けながら俺のことを見て、ハッとしたように下を俯いている。
「苦手な色か? 俺にもアクリスの見える色が分かればいいんだが、きっとその世界は綺麗なんだろう」
(…………)
「ウチは悪いっすからね、わるーいアクリっちだとしても興味あるっすよ」
「ハハ、てか、魔法使いなんて、魔を
キュリオもニシシと笑っている。キュリオにとっての興味あるは大好きってことだろう。
アクリスは、キョロキョロして、下をうつむきながら急いでゴーグルを小さな手で覆おうとしている。
(…… うれ== …… 悪い子 ……)
「アクリっち、ナンスか? ちょっと見えにくいっすよ」
キュリオがアクリスに近づいていくと、周りを浮遊するクラゲたちも赤くなりながら、動きを激しくしていく。
アクリスも、複雑な手印でも展開してるがごとく忙しなく動き、行手を阻もうとしてるかのようだ。
(見ないでなのー!)
「ほらほら、あんまりこの子をいじめるんじゃないよ」
ミニヴァンさんが、キュリオとアクリスの間に割って入ってくる。
アクリスは、ゴーグルを抑えながら、腿に顔をうずめ丸まっていく。
(…==…)
「…… ミニヴァンさん。娘さんのことを聞いたんですが、どう思ってんですか? アクリスの人身御供とも関係ある気がして」
「娘さん? どういうことっすか?」
「…… あんた、そんな話、誰から聞いたんだい?」
「娘さんもデウスルト様のところにいったと、そして耐えられなかったと、そう聞きましたよ。アクリスもそこに行かせるっていうのは、本当にアクリスのため? それとも……」
(色が…… 強まっていく、の)
アクリスが太腿から顔を上げている。
ミニヴァンさんの魔力の高まりを感じる。
「めったなことを口にするんじゃないよ。そんな貧相な情報で何を思ったんだい? アクリスのことで私の娘がなぜ出てくる? 娘が関係しようとなかろうと私がアクリスのためにやることは変わらないよ」
「アクリスは本当にそれを望んでる? ミニヴァンさんの思いをなぞってるだけなんじゃ」
「私としか喋ってこなかったんだ。似てくる部分もあるだろう? アクリスが今できる決断をしてるはずさ」
「そう、アクリスはもっといろんな色を知るべきだと思うんだ。それがこの子の才能、この子は俺ら以上に世界を純粋に捉えられてるのかもしれない」
(…………)
「おっと……」
結界を剥がして接触しようとしていたクラゲたちを、俺は小さな雲で包み上げていく。
クラゲたちは、モニュモニュといろんな色を発光している。
「もっと自分に正直に。お前の見えてる色ってやつはきっとそんな単純なものじゃないはずさ」
(不思議な…… また知らない色なの)
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