第57話 アクリスは無関心でいたいの

 キュリオは、アクリスのゴーグルを怪訝そうに見つめている。


「なんでっすか? 見えるようになる、聞こえるようになる、そんな当たり前を、そうすれば世界はきっと変わるっすよ?」

(……? 当たり前じゃなきゃダメなの? 私の世界を変える必要はないの)

「そんなん…… 知ってから選択すればいいじゃないっすか! 知らずに決めつけるなんて」

(あなたの好奇心は綺麗な色、でも私にはそぐわないの。私は無関心でいたい、私のことはほっといてくれていいの)


 ミニヴァンさんは、キュリオの声を聞いてはアクリスに届けていってくれている。


「絶対見えた方が…… 自分の姿、ミニヴァンさんの顔見たくないっ…… す…… 何を……」

(…… 私は悪い子、貯めていく、私を必要とする人たちに使ってもらえれば、それでいいの)


 キュリオを守る結界を光るクラゲが侵食し部分部分剥がしていき、そこにクラゲが収まっていっている。

 次第に、キュリオの結界内にもクラゲが時折光を発しながら群がっていく。


「…… 興味が、なくなるっす」


 キュリオは、頭のハート型の癖っ毛を揺らしながら杖にしがみつきガクッと片膝をついている。

 キュリオの肩には赤く光るクラゲが、ほっぺをツンツンとつついているのが見える。

 周りに展開されていた光る螺旋構造も、徐々に後方から朽ちていく。


「へー、綺麗なもんだ」


 俺もこんな感じでメイドさんのアニーに蹴られる羽目になったんだろうか。

 魔法で生成されたクラゲは、アクリスの世界を伝達しているのか、精神的なものに作用するものなのか……

 ミニヴァンさんやアクリスはデウスルト様の水からの影響はあまり受けていないようにも思えるし、きっと何か関係しているのだろう。


「この子は、言葉より先に魔法を知った、私らにはわからないこの子なりの世界を捉えてるのさ」

「まぁ、キュリオお前の意見もわかるし、俺もお前寄りだ。ただ俺らの視点が全てというわけでもないってことだろう。押し付ける必要はない、選択肢を知らせた上で決めるのはアクリスだ。そこに後悔はないだろ」

(…………)

「そんなもん…… すか?」

「それに…… こうかな? 別に大体のことは自由でいいと思うが、自分のことを悪い子だと思うのは、どうにかしたいもんだな」


 俺は、ミニヴァンさんを真似て、杖をアクリスに付け魔力を流し込んでみた。


(…… !? ……)


 アクリスは、俺の前で海の生物で彩られたスカートを強く握り締めている。


「前に似た技術は知ってたんでね、それの応用だと思えばさ、どうだろう、伝わったかな?」

「そんな簡単なものじゃないはずだがね」

「まったくそういうとこは大賢者様なんすから」

「キュリオ、お前でも多分できるよ」


 チャリスの育ての魔族であるクピディの魔法は、ほんとためになる。


(悪い子だと…… パンツを見せなきゃいけないの?)

「ふへ?」


 アクリスは、白く小さな手でスカートを捲り上げていっている。

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