第56話 アクリスはこのままでいいの
アクリスの周りには魔力がゆらめき立ち昇っている。
目を覆う黒い布と白浜のような肌がクラゲの光に照らされており、なんだか引き込まれそうだ。
「そうかい……」
(…………)
「悪い子って?」
「アクリスから見えてる世界は、私らの見えてる世界とは違うんだ。見えないし聞こえない、入ってくる情報が私らとは違う。魔法を通して会話ができてるのも私くらいなもんだしね」
「それなら、その世界の一端を担ってるのはミニヴァンさんってことでもあるんじゃ? アクリスにとっては自分の認識できること、ミニヴァンさんから教えてもらえること、それらがアクリスの世界の全てってことでしょ?」
ミニヴァンさんは、黙ったまま目を瞑っている。眉間に連なるシワからは、その想いの年季が感じられるようだ。
ミニヴァンさんは静かに目を開け、魔力をアクリスに飛ばしていく。
俺は、アクリスにあたる前にその魔力を杖で受け取った。
「あんた、何すんだい!?」
「これがアクリスの見ている世界の一部なら、俺にも、その世界の一端を見れないかなって思ってね」
内容は…… そうか、しかし面白い、テレパシーに近いんだろうか。こういう風に言語を魔力化しているんだな。クピディとはまた違ったアプローチだが似ているところもある。発想っていうのは同時多発的にあるが、それを形にできてる人なんて僅かだ、その才能の一端に触れる、世界を見渡せば思いがけないものもつながっていく。
「それなんすけど、ウチ治せるかもしんないっすよ」
「え、世界を?」
「いや、目と耳っすよ! 原因が分からないんで、すぐにってわけにはいかないっすけど、心の問題とかでなければ…… フローレンスでも目とかを怪我した人たちはいたし」
「すごいな、試してみるか?」
「…… アクリスの目と耳を治せるってのかい? ただ、それはここ、コチャバ村が望むことではないね」
「村の望みが関係あるっすか? それにどのみちやってみなきゃできるかわかんないし、色々いじらせてもらう…… 試してみる価値はあるんじゃないっすかねぇ?」
キュリオは、歪な笑みを浮かべそう言いながら、青白く光る二重螺旋を頭上に現出させていく。
キュリオの渦巻き出す瞳がアクリスに向けられた時、俺の方を向いていたアクリスもピクリと反応している。
アクリスの周りには、浮遊していたクラゲが収束していき、光を発しながら結界が構築されていく。
(…………)
「ん? ミニヴァンさん、アクリっちに、伝えてくださいっす。治すためなんだから、結界を解いてくれって」
「無駄だと思うよ、この子は望んでいないってことじゃないかい」
ミニヴァンさんは、そう言い杖を振りアクリスに魔力を送っていく。
アクリスの周りで出来上がっていく結界の中を電気信号のように動き回るクラゲがそれを受け取っていく。
(このままでいいの)
アクリスのゴーグルに文字が浮かび上がり流れていく。
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