第55話 アクリスは悪い子なの

   ◇


「どーーーなってんすかぁ!? チャリっちがあいつの花嫁になっちまうっすか?」


 ―― キュリオ?

 うぅ、俺は、気を失ってたのか……


「あいつって…… デウスルト様が上機嫌だったから良かったものを。ここ以外では、そんな言葉もう口にするもんじゃないよ」

「ミニヴァンさんは、あれがアクリっちの幸せだって、あそこにいることが『生きる』ことだって、本当にそう言えるんすか?」

「あれは仕事みたいな、生きてく上で必要なこと。全てを楽しく生きることなんて無理に決まってる。それに人はみんな利用され利用する、その因果の中でもがくしかないのさ」

「ウチはそうは思わないっす。興味の赴くままにいけばいいんすよ。因果もクソもない、補完しあうっす」

「ふん、むしろそれを利用してるようなもんさね。わたしゃ、道義を叛してる…… 竜獄に堕ちる覚悟はできてるさ」


 なんだか熱くなってるな。

 俺は、体を起き上がらせる。気持ち悪さはなくなってるがなんか元気出ないな。

 キュリオに、ミニヴァンさん、アクリスもいる。

 チャリスはまぁ、いないか……

 

「ん! リテラっち! まったく何やってんすか? 水風船みたいに腹パンパンにして破裂しそうだったんすよ? 」

「やっと起きたのかい、お前さん、荷車で運ばれてきたんだよ。このキュリオって子に感謝するんだねぇ。あんな状態を治しちまうんだから、大した魔法使いさ」

「そうだったんですね。ありがとう、キュリオ。なんかお前には治してもらってばかりだなぁ」

「あれはあれで面白かったっすけど、お陰でチャリっち置いてくしかなかったんすよ。これからどうするんすか?」

「それは俺もわからんが。お前こそ…… あの水、あの魔力を体に入れて大丈夫だったのか?」

「あれは、この村に来た時から興味持ってたんで無力化したっすよ。得体の知れない魔力はクリクリ病でコリゴリっすからね! それでも、普通の水になってたとしても! あんな注がれ方した水飲むなんて、精神的ダメージは相当なもんっすけどねっ!」

「はは、お前賢いなぁ。でも確かにあれなら、まだチャリスの虫おやつの方がマシに見えるかもなぁ」

「これだからこの、大賢者様はっ! んー、虫おやつはぁ、あのゲジゲジした…… それは甲乙つけ難いっすー」

「大賢者…… そんな大それた肩書きあるんだねぇ」


 キュリオは、悩まなくてもいい比較で苦しんでるようだ。

 キュリオのおかげでめまいとかは確かに治ってる、でもなんだろう、やる気がでない、魔力もまだ上手く引き出せなさそうだ。

 しかしどうしたもんか。チャリスは最恐さいきょうにして最弱だし。


 フワッ。

 淡く光り、人の動きと共に近づいてくる物体がある。


 …… クラゲ?

 顔を上げると、黒い布で目を覆うアクリスが目の前に立っている。


「アクリス…… ?」

(…………)

「口で言ったって、その子には届かないよ」

「…… すまん。そうだったな、って聞こえないか」


 また、何かされるんだろうか。

 クラゲは、俺に触れては離れ、それを繰り返しては様々な色に変化している。


「リテラっち、チャリっちのこと助けに行くっすよね?」

「まぁ、どうなんだろう。チャリスは、アクリスの件についても肯定的な面があったし。チャリス自身望んでこうなってる可能性もあるわけだしな。お前はデウスルト様のとこじゃなくていいのか?」

「はぁぁあ? 頭に水でも登ってんすか? ウチの考えてること、口に出さなきゃ分からないっすか? 汲み取れっすよ! 生きた化石になびく趣味はないっす!」

「はは…… そうだな、うん、なんだろう、急に頭がスッキリしてきたよ。それに化石に失礼ってもんだ。うん、色々わからないのが分かってきたよ。とすると、まず、そうだな…… ミニヴァンさん、あんたはどっちなんだ?」


 ミニヴァンさんは、俺のことを横目に見ながら魔力をアクリスに飛ばしていく。


「まったく…… どういうことだい、アクリス」

(…… だって私は、悪い子なの。そうでしょ?)

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