第52話 アクリスは期待されてたの
アニーは、大人な雰囲気を醸し出しながらも、ゴブレットを両手の細い指で支えながら、小さな口をふちにつけクピクピと美味しそうに飲んでいる。
「そんなことになっているのなら、魔力贈与なんてしなけりゃいいのにな……」
「もぉー、あなた賢いんじゃないの? ならも何も、デウスルト様の行為に理由なんていらない、否定するなんておこがましい。してくださることに対応できない私たちが悪いんだから。そういうことよ」
「そ、そういうこと? まぁ、デウスルト様はめちゃくちゃ尊敬されてるんだな……」
「尊敬なんて、そんな浅はかな言葉で表現しないでほしいわ。デウスルト様がいなければ、水がなくなる。そしたら私たちは生きられなくなる、私たちはデウスルト様の優しさで生きられているのよ」
「うーん、まあここの水はなんらかの魔力を感じるし、あの泥水が綺麗にされていることは確かだろう。それにこの辺一体の水を全て管理しているとなるとデウスルト様の功績は凄まじいものがあるのかもね」
「そうよ、そうなのよ! それにこの水は川上の町との交易にも使えてるの。そのお金でいろんなものを私たちは買ってくるの、ここの館にあるものはほとんどそうよ、それを近隣の村にも、ここでの労働の対価に応じて配分してるの。デウスルト様のおかげで、水もご飯も物も私たちは困らなくなったのよ」
ふむ、そういう仕組みが常態化しているのか。
まさにデウスルト様がいないといけない仕組みなわけだ。
「デウスルト様は、村というか、この辺りの人たちにはなくてはならない存在なんだな」
「そうね! だんだんわかってきたじゃない、でもまだ足りないわ。村のためにデウスルト様がいるんじゃない。デウスルト様がいるから私たちは存在できるの。デウスルト様がいないのなら私たちだっていらないもの。だからこそデウスルト様のためにも、期待に応えるためにも、アクリス様には頑張ってもらわないと」
「そうそう、それはアクリスも望んでるんだよな? 本当は断りたいとかさ」
「断る…… って何? すごい発想ね。デウスルト様の素晴らしき畏れ多いお姿はアクリス様には見えないし、魔力の方はメイド長が見てくれている。きっとデウスルト様は満足してくださる。メイド長にとっても、娘様の功績を活かしてきっと成功させてくれるわよ」
「ミニヴァンさんの娘さん?」
「えぇ、メイド長の娘様も昔、花嫁として選ばれたのよ。体が弱かったのもあるのか、デウスルト様の魔力に耐えられなくて、短期間だったけど。栄光なことなの」
「そうなのか…… そんなことが」
俺は、席を立った。
客人としてのただ酒は思ったよりもあまり美味しくないみたいだ。デウスルトの味しかしない。
「もう帰っちゃうの? 私もついていっていいかな? もっと、もっとおしゃべりしたいし、この村について知ってほしいし」
「んあぁ…… ありがとう。でも今日は疲れたし、ゆっくり眠ることにするよ」
アニーも、そういえば、村長のピスキスさんも、デウスルト様に対しては肯定的すぎる。異様な、もはや崇拝だ。一緒に部屋なんていったらある意味、今日は眠らせてもらえないだろう。
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