第51話 アクリスは村の水は嫌いなの

 ご飯を食べた後、チャリスとキュリオは部屋へと戻っていった。

 俺は、バーがあるらしいので、そこに立ち寄ってから帰ることにした。

 なんせ、無料らしいし、お酒なんて、いつぶりだろう?

 バースペースに入ると、そこは淡く光る結晶に囲まれ、木・金属・ガラスのゴブレットが立ち並び、後ろには樽が積まれている。

 木造りだからだろうか、洞窟の中の隠れ家みたいな雰囲気があって、男心くすぐる内装だ。


「結構、混んでるな、ふむ…… お、ここお隣いいですか?」


 空いてる席はちらほらあったが、なぜここを選んだかって? そりゃあ、綺麗そうなお姉さんが座っている隣だからに決まっている。

 最初の世界から席を選ぶときの鉄則として身についている。


「いいです―― って、あなた、旅人さん…… リテラ様でしたっけ?」

「リテラでいいですよ、また、仕事服以外も素敵ですね」


 髪型も違うし、後ろ姿では分からなかったが、アクリスの部屋で俺のことを蹴り上げたメイドさんだ。

 部屋着だろうか? 布生地一枚の少しくたびれたロングワンピース、足元は少し切れ込みが入っており、淡い光に照らされながら頬を赤らめている、なんともだ。


「もうそんなんばっかり…… そういえば、後でメイド長に聞いたけど、あれはアクリス様の悪戯だったみたいね。でも、案外そのせいばかりともいえなそう…… ね」

「何を隠そう、俺、キャベツ少なめのロールキャベツ男子なんで。メイドさ…… えっと」

「ふふっ私は、アニーよ」

「アニーはもう結構飲んでそうですね?」

「もぉなーに企んでるの? でも残念、私はお酒強いの。この辺は、水代わりにお酒とか飲むことも多かったから、かな? それに私の腕っぷしはもう体験できたでしょ? 変なことしてきても返り討ちにしちゃうんだから」


 なんだろう、とても素晴らしいぞ! 俺の周りにいるちんちくりんらとは、漂うオーラというかフェロモンというか構成が違う。

 アニーは、力こぶを作る仕草をしながら、悪戯っぽく舌を少し出して笑っている。

 まぁ、拳でなく蹴り上げられたわけだが、ここでそんなつまらないことは置いておこう。


「アニーも、デウスルト様のお嫁様候補としてこの村に?」

「私は残念だけど…… 最初から館の方の募集で来てて、デウスルト様のお世話も花嫁も、魔力がある程度ないとつとまらないの。私は魔法を使えないから……」


 そういえば、そんなようなことをミニヴァンさんも言ってたな。


「デウスルト様のお世話には魔法を使用する必要があるってこと?」

「それもあるだろうけど、私も詳しくは知らないの。知ってるのはデウスルト様からのありがたい魔力贈与があって…… 羨ましいよね。魔力が高くないとそれに耐えられなくなっちゃうみたいなの。デウスルト様の魔力なんだから私たちみたいなのに耐えられるわけないんだけど、デウスルト様が可哀想よね?」


 魔力贈与? 俺がクピディのヤバそうな機械でチャリスにやったみたいなもんだろうか?

 確かに、チャリスだったからこそだったのかもしれないし、耐えられてたのかもなんとも言えない。

 まぁ、もう二度とやりたくないが……

 しかし、その不名誉な経験を踏まえると、女の子たちが耐えられない魔力贈与をされてる図はなんともヤバそうなイメージしか出てこないな。

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