第45話 アクリスはクラゲさんが好きなの
アクリスは、帽子を直しながら俺の前に立つと、グローブにはめてある魔石を光らせ、煌めくクラゲを俺の体に付着させていく。
三原色に移ろいゆく大きな帽子を片手で支えながら、帽子や何体かのクラゲに文字が映し出されている。
(賢者様を早く生き返らすの)
(賢者様に早く会いたいの)
(ファチャッとミュキャッとメニョンと)
相変わらず、独自のオノマトペみたいなもので表現してるな。
それにしても俺の位置からだと、ちょうど水玉模様のニーソックスの先が見える。ローブの中、クラゲさんにライトアップされてなんて幻想的なんだ。このまま昇天するなら俺はあそこに飛び込んでいくだろう。
てかいてて、早く助けて、アクリス。ずっとなんか引っ張られる、なんだこれ、糸? 蜘蛛の糸か? いやいやいや、煩悩は抱えているが、俺はまだ地獄に落ちているわけじゃないぞ。
(何か嫌な予感がするの)
(ビビンと、ゴナゴナ、ヤンギャーバンギャー)
嫌な予感…… か。まさか、これが救いの糸なのか。
アクリスのこう言う予想は案外当たる。目と耳の不自由なアクリスには俺にはわからない超感覚のようなものがきっとあるんだろう。
そう、出会った時から、アクリスはそうだった。
◇◇◇
「見てください、リテラ様がよく着させてくれる洋服を着ている方がいっぱいいますよ!」
「そういえば、ウチが一緒になってからはそういうのしてないじゃないっすか、着てあげましょうか、ね、大賢者様?」
キュリオは、そんなことチリひとつも思っていないようなにやけ顔で俺を見てきている。
俺はキュリオを一通り眺めながら。
「うーん、お前の体型だと、スク水かなぁ……」
ここには、クマたんのワームホールのようなものを実験的に試していたのだが、そのままみんなして知らない場所に飛ばされてしまっていた。
飛ばされた先の川の上流から歩いてきたら、このコチャバ村という大きな館のある以外は特に特徴のなさそうな辺鄙な村に到着したわけだ。
「この村に旅人とは珍しい、しかもこのおめでたい時期に来るとは! 泊まれるところなんてこの館くらいですし、割高ですがゆっくりしていってくださいな」
「割高…… ですか。それにしてもおめでたいことがあるんですね?」
「いやあ、今まではデウスルト様と合う方がいなかったのですが、今度はうまくいくのではないかと、デウスルト様もかわいくなられましたしねぇ」
「デウスルト様は、村長さんより偉いんすか? 王様?」
この男性は、この館の主人で村長のピスキスさんだ。
そういえば年頃の女の子がこの館には多い印象だ。メイドさんもいるし、後宮…… ハーレムみたいなものだろうか。うむむ、けしからん。
「いやいやいや、デウスルト様をそんな表現はできないです。デウスルト様は、長年苦しんでいた水不足を救ってくださった、また汚れた水も浄化してくださる、それがこの村をいろんな意味で潤わせてくださるのですよ」
「そんなことが…… 確かに近くの川は茶色いくて、飲むのにはあまり適してなさそうだし、デウスルト様のおかげなんですね」
「そうなんですよ! そうだ、皆さん魔法を使えるようですし、デウスルト様のためのアクリスの門出を祝って、当日はパーっとやってくれませんか? そしたら宿代などこちらで負担しますよ」
「えぇ? パーっとって? パーっと綺麗にしていいんですかぁ?」
「いえいえ、それくらいのことでいいなら是非。チャリス、多分お前の思ってる綺麗とは違うぞ。お前にはタンバリン作ってあげるから、な?」
俺は、ピスキスさんに承諾した後、チャリスに少し耳打ちをした。
しかし、宿代なしとは渡りに船だ。それは助かる。キュリオのお金に頼りきりなのも限界を迎えそうだったしな。
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