第42話 キュリオは楽しむっす

「わ…… 私は、あの方にこの町をキラキラにしてほしいと……」


 メフィレスもこれからの顛末をなんとなく察したんだろう。

 2人の女の子の異常な瞳に見つめられながら、血の巡りは再開されてそうなのに、青ざめていく一方だ。

 俺はこの町に来てまだ数週間。魔族に滅ぼされかけた町の復興に、メフィレスの働き、キュリオの働き、いいところも悪いところもあったろう。その功罪などは俺が論じるものでもない。

 ただ、お前の崇拝する魔王の思想にあやかるなら、その姿の時点で結果は歴然だろう。あいつはかわいいものが好きだからなぁ。


「チャリっち、次は鼻から上だけ残してみるってのはどうっすかねぇ?」

「ふ、ふざけるな…… 私の輝かしき計画を…… お前らは、あの赤ん坊の良さも分からん下品な肉食男と一緒に…… 茶茶くろうが、契りを結ぶでも好きにしてれば――」


 その時、遥か上から閃光が差し込み、メフィレスにはピンクの矢が突き刺さり、掴んでいたチャリスが吹っ飛んでいく。


「これはこれは、面白いっすねぇ…… どういう状態っすか? 死んでないのに回復できない、死んでないけどいなくなってる?」


 これはクピディの時の……? 俺の結界を破壊もせず、すり抜け? てきている……

 これは、魔法、事象…… 理……


「あらぁ、壊せるものが減っちゃいましたねぇ」


 チャリスは、くるくる吹っ飛びながら、壁に足をつけると、ゾワゾワした瞳で辺りを確認している。

 四方に展開していた赤黒く輝く光球を杖でフワフワさせながら、決めたであろう一点に向けて収束させていく。

 キュリオは、迫り来る赤い光球を前に、白い修道服を赤く、青い髪を紫に反射させながら、笑顔でそれらを出迎えている。

 最終的にチャリスルーレットは、キュリオに落ち着いたようだ。


「あふぇ♪」

「ウィヒッ」


 2人の若き乙女の笑い声が響き渡るとともに、辺りは爆炎とプリズムに包まれていった。


   ◇


「んーっ! フローレンス大聖堂も無事でよかったっすねぇ」

「…… これ無事なのか?」


 キュリオは、小さい身体を精一杯伸ばしながら、摩天楼を見上げている。

 摩天楼は、見て分かるぐらいには傾いている。まぁ、とりあえず倒れてはいないが、押すなよ押すなよ状態なのかもしれない。

 数時間付き合わされた身としては、もうヘトヘトだ。メフィレスのことなんてじっくり考えてる余裕もなかった。

 この建物が倒れて町を破壊しないか、チャリスの魔法が市中に蔓延らないか、気が気じゃなかったよ。

 しかし、一つだけ訂正しておきたい、俺は肉食男子ではない。ロールキャベツ男子だ。キャベツ厚め、肉汁濃いめのな。


「うーん、この曲がり方は、きっと天下取りですね!」

「もぎ取りがいがありそうっす!」

「お前ら、スッキリしてそうだな……」

「スッキリっすか? そういえばリテラっちなんか匂うっすね?」

「リテラ様、しいしいですか?」

「……え?」


 チャリスとキュリオは小さな鼻を2人してつまんでいる。

 確かにポケットが湿ってる…… そういえば、ここには小銭でも稼げないかとクリスタル化した小便を入れておいたんだっけ……

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