第34話 キュリオの耳を塞いでくださいっす

 フガッ…… ムゲ……


 ボンヤリと老人が見える、なんだ? 天国か?


「こりゃ、お主、何しとる? 浴場で寝るものがあるか?」

「あぁ、爺さん…………か ――!?」


 そ、そうだった、昨日、キュリオと風呂で――

 ハッとして、下半身を確認したが、ある、ちゃんとある、変わらずにクリスタルのまま。


「何をホッとしとるんじゃ? ほれ、若いんじゃからシャキッとせぇ」

「おぉ爺さん、すまんな」

「連れの女の子も心配そうにお前のことを探しておったぞ。あんな顔をさせるんじゃない。お前がそう昨日教えてくれたんじゃろぅ?」

「ハハ、全くだ、『人』ってのは面白いなぁ、爺さんよ」

「ときにお主ら、クリスタルシンドロームについて色々調べとるんじゃろ? ワシの高齢者ネットワークも使うといいぞ」


 髭に埋もれた爺さんの顔は何やらドヤっとしていたが、ありがたいお話だ。


   ◇



 それから、数日、ヨッシー率いる孤児たち、神父の爺さん率いる高齢者? 軍団で色々と調べてくれたり援助をしてくれていた。


「……うーん」

「リテラ兄ちゃん! なんか分かったか? これでみんな助かるの?」

「こんな聞いたことまとめてるだけでなんか分かるんすか? ウチには面白さがわかんないっすよ」


 キュリオは自分より高い杖にもたれかかりながら疑い深くため息をついてくる。

 孤児のヨッシーたちは、答えを待ちきれずに走り回っている。

 確かにこの子たちはすごい頑張ってくれた。きっと魔族が来た時何もできなかった悔しさがあったんだろう。自分たちはクリクリ病にも無力なのかと、その反動で生まれたエネルギーはとても頼りがいがあった。

 そのお陰もあり、調べてみる価値がありそうな仮説をデータは示してきている。

 町の地図にクリクリ病の発症者をプロットすると中心に向けて点が集まっていく。

 そこで感染源の可能性としてクリスタルに着目すると、貧困層は支給品のクリスタルが来た後に発症しており、そうでない層は発症前に酒場に行っていたとの報告が多くなっている。

 酒場に聞き取りを行うとクリスタルを新しく入れ替えた時期とある程度一致していることがわかった。

 これらの情報から、感染との関連が疑われるクリスタルは、ほとんど同じ採掘場から取れているものだ。

 それは、この教会の隣の摩天楼、あの奇抜なおっさんメフィレスの従事するフラートル大聖堂の所有する地下採掘場だ。

 しかし、この仮説通りならやり方が汚い。金に余裕がある人たちが行きそうなところ、金に余裕がない人がすがりそうなところ、うまく散りばめてやがる。


「リーテーラ兄ちゃん! 聞いてる?」

「お、おぅ、考え込んでて。あとちょっとで分かりそうなんだ、ちょっと考えさせてくれ」


 俺は、爺さんに分けてもらった2枚のクリスタルの板を撫でながらヨッシーたちに答えた。

 ヨッシーたちはクリスタルの奥から恨めしそうな目を向けてきている。

 目には目を、クリスタルにはクリスタルを。

 人為的であるなら、この片方を採掘場に置ければ、治療魔法の解読までいける可能性がある。これは俺がやるべきだろう、リスクが高い。

 感染条件もまだ不明だ。おそらく保因クリスタルの近くでの魔法使用とナニカのはずだとは思うのだが。

 早くしないと、俺の症状も進行してきてる、クリスタルのパンツ履いてるみたいになってきてるし、ちょっと歩きづらいんだよな。


「キューリーオちゃん! キューリーオちゃん!」


 遠くから声が響いてくる。


「なんか最近、お前の名前やたら聞こえてこないか?」

「……はぁ、気のせいっすよ」


 キュリオは自分より高い杖におでこをこすりつけながら長く深いため息をついていた。

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