第33話 キュリオは成長期っす

 キュリオが身体を血で染め、死にかけた人たちを次々に回復させていく、それはまさに人外の、神業的な光景に見えたのかもしれない。

 俺やチャリスは、似たような所業で逆に悪魔的扱いを受けたこともある。『神の子』と聞こえはよくても、結局その本質は思考停止だろう。


「まぁ、俺から見たらキュリオはちょっと変わっただけの女の子じゃないかってことだ。ただ、爺さんたちが根拠のないタグ付けを継続すればするほど、期待すればするほど、それはキュリオを縛り付けてくる、重くのしかかってくる、未来を奪いかねないんだ。爺さんだってそれはやだろう?」

「…… わかっとるわい。だがワシが代われるものでもなかったんじゃ。死にかけていたワシ達には、この町には、あの時にはキュリオちゃんが希望だったんじゃ。あの子は、今までそれを受け入れて笑ってくれた。なんて強くてかわいくて偉大なんじゃ。あの小さい身体にどれだけの重荷を背負わしたかなんてわかっとる。それに甘えてしまったのも…… みんな甘えたかったんじゃ」

「どこか飛び抜けてたとしても、異常だったとしても、他のところは普通の人と変わらない、むしろ脆かったりしょぼかったりするもんだ。神の子の一面があったって、他の面は人の子だろう」

「クリスタルが見つかってからは、町も賑わってきてたんじゃ。なのに、クリスタルシンドロームがまたその歯車を狂わしてきよる。結局は金で解決するか、キュリオちゃんにすがるしかなくなってしまってたんじゃ。ここに来るような人たちはまた奇蹟を望んでるんじゃ」

「重荷は、片寄ってたら分け合えばいいじゃないか。期待だけするんじゃなくて、大好きなキュリオちゃんの荷物なら持ってやりたいだろう?」

「そうじゃのぅ…… 長生きさせてもらった分推しにはちゃんと貢がんといかんのぅ」


 ふぅ、股間を広げながらの会話ってのも胸襟を開くようなもんだ。

 俺はズボンを引っ張り上げて、爺さんと頷き合った。

 ただ結局何だったのか、この時間は。


   ◇


 戻ってみると、チャリスはまた座りながら寝ている。

 今日は、教会の空き部屋を寝床にしていいみたいだし、この教会には自前の風呂が珍しくあるらしいから、ちょっとひと風呂浴びてきたいな。


 俺はチャリスを寝床までおぶり、寝かせてあげ風呂場へと向かった。


 ガラッ――


 扉を開けると、湯気が立ち込め全貌は見えにくいが、それなりに広く普通に旅館の大浴場って感じだ。

 そんなことを思ってたら、湯気の中から、キュリオがピョコッと出てきた。

 髪をタオルで巻いており、素っ裸で呆気に取られた顔で俺を見ている。


「…… なんもねーな」


 俺は反射的に口から出していたかもしれない。

 キュリオは俺に向かってニコッと笑ってくれた。


 ――フンぐわぅぅお!? いげでてて!


 キュリオは、笑顔で俺のクリスタルを捩じ切るがごとく強く握り捻り回してきている。


「キュリオ? キュリオちゃん? キュリオさん?」


「すんませんねー、な・ん・も・な・く・て」


「いや…… よく見ればあ――」


 ウンバババババッ!


「リテラっちも、お揃に、なーーーんもなくなるといいんじゃないっすかねー。ウィヒヒヒヒ」


 そう言うキュリオは、それはとてもとても悪魔のような笑顔だった。

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