第32話 キュリオ的には2人ともキモいっすよ

 神父の爺さんは、キュリオの、いやキュリオちゃんへの深淵なる情熱について、長々と語ってくれた。


 どうでもいいことは無視して、話してる内容を噛み砕いていくと、5年前のこの町への魔族の大規模な襲撃、それは魔族による強者至上主義のパンカーネア運動の1種だったようだ。

 その時のは子供以外を対象としており、大勢の大人たちが選別され、聖職者だったキュリオの両親も被害にあった。

 数週間続いた後一通り選別を終えた魔族達は満足して立ち去り、その後に残されたのは子供達と生死を彷徨う大人達だけだった。

 そこで、キュリオは瀕死の大人達を次々に回復させ、『神の子』と呼ばれるに至ったとのことだ。


「キュリオちゃんはのぅ。最後まで動かぬ両親や他の人たちに洋服を赤黒く染めながら、ずっと回復を試みておった。、ワシは消えゆく意識の中ぼんやりとその光景をずっと見とったよ。だがどうじゃ、しばらくしたら、キュリオちゃんは、涙を流しながら高らかに笑い、死体をいじくりまわしていたよ」

「何回も聞いたよ。その後キュリオはとんでもない魔力で瀕死の人たちを死地から救ってくれたってんだろ?」

「そうじゃ、キュリオちゃんは天才でいて神の子。ワシには常軌を逸した、狂った行為にしか見えんかった。だが、そこには神聖なるナニカがあったんじゃ、神様が舞い降りてくださったに違いない」

「ふぅ…… キュリオがどんな気持ちでどんな想いでソコに至ったかなんて俺にはわからない。だからって『天才』だとか『神の子』だとか、勝手にタグ付けして納得してんのはどうかと思うがな」

「お主に何がわかる…… チンピカ野郎。この争いの世の中で奇蹟が起こったんじゃ。それを信じて何が悪い? しかもキュリオちゃんはな、かわいいんじゃ」

「キュリオが『神の子』なら、クリクリ病も治せるだろうし、その時蘇生魔法だって使えただろうに…… 奇蹟と信じるのは勝手だが、それをキュリオに背負わせ続けていいかは別だろう。ロリコンじじぃ」


 魔法は魔力とイメージと構築式で成り立つ。医学の発達してないこの世の中で『治せる』イメージは相当難しいだろう。キュリオの覚悟は相当だったはずだ。

 命の価値についても、この世界のそれは最初いた世界とは違う。それほど生死が身近にある。

 もう数百年種族ごとの争いが続いており、人々は確かに疲弊してるだろう。そこで起こる人外的な出来事に信仰したくなる気持ちも分からなくはない。だからといって、誰かが大衆のための犠牲にはなるのも正解とは思えない。


「チンピカが言ってくれる…… だがお主、股間を輝かせてるだけのことはあるのぉ」

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