第28話 キュリオはトイレのお供をしたいっす

 カラン、コロン、コロロロン。


 おぉ、すげぇ、ちゃんと小便は出るようだ。

 でも、これ、小便なんだろうか。尿意はおさまってきてるし、いつもの解放感だけど。

 俺のクリスタルな息子こと、クリチンからは、綺麗な結晶石が出てきていた。

 なったことないけど、尿結石ってこんな感じなんだろうか、痛みはないしスッキリしただけだけど。

 これ、路銀の足しにできるといいんだけどなぁ。


 ドンガンゴン!


「リテラっちー、一瞬! 一瞬でいいんすよー!」


 あぁ、うるせー! しつこい、しつこいよー!

 キュリオは、俺が小便試してみると言ったら、しきりと見せろ見せろとしがみついてきていた。

 やっとこさ、引き剥がしても、扉から何回も侵入してきたので、何重も強化魔法を施しておいて今に至るのだ。


 俺はトイレから出ると、目を輝かせたキュリオが、待ってましたと言わんばかりに俺の前でピョコピョコ飛び跳ね、青いハート型のアホ毛をピロピロ揺らしてくる。


「どうだったんすか? 出たんすか? どうやって? ジョウロみたいにっすかね、何色っすか、匂いは――」

「あぁ、もう! うるせーなぁ、これやるから、それで我慢しろ」


 俺は、一粒結晶石をキュリオの小さな手に乗せてあげた。


「な…… なんすか、これ?」

「これが俺の小便だ」

「えぇぇ、マジっすか? これが? うひゃあ、匂いは…… ないっすねぇ」


 ドン引きして諦めてくれると思ったら、俺の想定が間違っていた。こいつもきっとどこかのネジが外れてる、変態なんだと確信した。

 クリスタルとはいえ、人の小便に鼻の頭擦り付けながら、まじまじ、嬉々と見入っている様は異常だ。


「いやぁ、いいもんもらったっす、あ、やば、ちょっと、ウチ外回り行ってくるっすね」

「お、おぅ、それ…… あんま人に見せんなよ……」


 キュリオは、俺の小便をつまみながらその手で嬉しそうに手を振って外へと走っていった。


 この教会では、神父様とキュリオ含めて何人か聖職者が従事している。

 フラートルの高額な治療費を払えない人たちがここにたくさんきており、中はごった返している。キュリオたちはほとんど無償でケアしてあげているようだ。

 ただ、進行を遅らせることはできても完治させることはできないため、お金のないものは徐々にクリスタル化に侵食されてしまうのが現状のようではある。

 キュリオは、そんな症状が進行し出歩けなくなった人たちのために、外回りに行っているのだ。

 俺は、急いでないから、最後でいいと、神父様がみてくれることになっている。


「あ! リテラ様ぁ、おしっこちゃんとできましたかぁ?」


 チャリスは、大声で叫びながら満面の笑みで手を振っている。

 俺は、チャリスの叫び声に反応した周りからのイタイ視線やヒソヒソ話に恥ずかしくなって下を向きながら近づいていった。

 「うん、僕、おしっこ1人でできよー」…… ってゆうかぁ! アホかぁ!

 なんだ、そのお子様プレイ!

 キュリオにチャリスに…… なんで、小便ひとつでこんないろんな気持ちにならにゃいかんのだ。


 俺はチャリスの横にへたりと座り、キュリオから預かっておいた教会の帳面に目を通してみた。

 ふーん、結構詳細に記録されてるな――


「ひゃあ、またツンツンするんですかぁ?」


 ん? 顔を上げて見てみれば、なんだ、朝の孤児たちじゃないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る