第26話 キュリオは面白いものが見たいっす
背の高い意地の悪そうな男は、こじんまりしたキュリオを虫ケラのように見下していた。
シルクハットを被り、紫を主体とした緑と黒が散りばめられたジャケットローブを身にまとい、エレガントにも奇抜にも美しくすら見える細長い体をくねらせ、威圧的にキュリオを威嚇している。
黒ずんだ目元、吊り上がった眉、歪んだ口元、どうみても悪人顔だ。目があったらそらしたくなるタイプだろう。
「あぁ、日差しが眩しいよ。お前は光を持ってるよなぁ。光が必要な奴らはたくさんいる。なぜそれを分け与えない?」
「…… メフィレス。前をよく見ずにぶつかって悪かったっす」
「私は、疲れているんだよ。来る日も来る日も人助け、慈善、もはやボランティアだ。お前は、なんだ、そんな私の邪魔をしたいのか?」
キュリオは、うんざりした顔をして座り込んでいる。おそらく何回も同じことをこいつは言ってるんだろう。
メフィレスは、怪訝そうな面持ちでキュリオのほっぺに杖を突きつけようとしている。
俺は、フワリとキュリオの周りに空気の壁を作った。メフィレスの杖はキュリオにぶつからずにスカッスカッとしている。
「メフィレスとやら、ちょっとぶつかっただけだ、そんなに非難することでもないだろう」
「なんだぁ? お前…… 眩しいなぁ…… あぁ、クリスタルシンドロームにかかってるのか。貧民じゃなきゃ治してやらんこともないぞ? まぁ、割り込みということになるからそれなりに積んでもらわにゃいかんがな」
メフィレスは、俺のことをジロジロみながら、不敵な笑みを浮かべ、魔力を高めていっている。
「この人がフラートルって団体でクリクリ病を治している人っすよ」
「こいつが? そんなに大変なら開示すればいいだろう。俺はボランティアなら最近得意になったぞ?」
「ウチも興味あるっすけど、この人には無駄なんす」
「この魔法は、人には教えないんだよ。悪用されたらたまったもんじゃないからなぁ…… ほら、お前らみたいな化け物には特になぁ……」
メフィレスの指差す方を振り返ると、チャリスも歪んだ笑みを浮かべて、魔力をゾワつかせ、メフィレスを見て杖に頬擦りをしていた。
俺の中で積み上がったトラウマが連鎖していく。
「あはぁ、戦闘ですかぁ」
「うっわ、なんすかこの魔力!? 興味深いっすねぇ」
キュリオの魔力も上がってる。これはまずい兆候だ。
「ふにゃあ」
俺はチャリスに睡眠魔法をかけた。
こいつは、攻撃特化、攻撃を攻撃で抑えようとすると収拾がつかなくなる。ただ、防御はおざなりだ。
倒れ込むチャリスを抱えて振り向くと、メフィレスはそそくさと摩天楼の方へと向かって行っていた。
「面白いものが見れそうだったのに……」
なぜかキュリオは不満そうだが、こんなもんは何の面白味もない。リスクヘッジだ。町はクリクリ病とかそんなんどうでもよくなる。常識が終焉になることを味わうだろう。
「あいつが唯一の治療法なんだろ? そもそもお前は故郷を無くしたいのか?」
「ははは、大袈裟っすねぇ。まぁ…… でも、さっきは守ってくれて嬉しかったっすよ。じゃあ、教会に行くっすか」
キュリオは、杖を肩に乗せ、足取り軽く歩き出して行った。
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