第20話 チャリス1番もらいました

 クピディの文字は、ミミズ文字で少し読みにくいが、チャリスは見慣れてるようでうまく解読してくれる。


「色彩放つ暗黒雲の日、自由が開かれた。俺の研究施設を壊したあいつだ、面白いやつだ。基本的に魔法は、魔力とイメージと構築式で形成される。それらの欲求の背後には源泉があるとされてきた。暗黒雲をきっかけに源泉が解放され特性スキルが呼び起こされた可能性がある。俺の場合は対象の特性スキルを言語化できるようになっていた。自分のはわからないが『因業心誌キャッテルグラフ』と名付けようか。あまり使い勝手がいいとは言えないが、本心を垣間見れるし個人的には気に入ってる。これでクマもさらに強化できるだろう。2回目の暗黒雲を見れたチャリスも解放されてるはずだ。俺は死にかけたよ。あいつは憎しみなんて求めていなかった。チャリスの特性スキルは、『退廃的な愛パンドラボックス』、傲慢だ、俺の目にやはり狂いはなさそうだ。ただ、まだまだわからないことも多い。俺の体の急な変化はなんなのか、これは別の因子か、魔王様のお戯れか。進歩と強制は違う』


「これは…… 暗黒雲はアスペラトゥスのことだろう。解放? 魔王? クピディは、鑑定のような特性スキルを会得したということだろうか? それがアスペラトゥスの効果?」


 ふと横を見るとチャリスは、ゾワッとした目を俺に向けている。


「あはぁ、リテラ様、魔力が上がってますよぉ。ここに書いてあるのは、クマたんの『強さへの渇望YOLO』みたいなものですね!」

「え? チャリスもできるの?」

「さっきのクマたんとの戦いで、頭の中に浮かんできたような感じでしたよ?」


 チャリスの『退廃的な愛パンドラボックス』は、やはりコピー的な特性スキルなのだろうか。

 言語化されても、詳細までは掴めないな。確かに使い勝手は良くなさそうだ。


「てか、そしたらさ、俺の特性も見てくれよ」


 チャリスは、ほっぺをぷくっと盛り上げ半笑いを浮かべると杖に構築式を展開しながら、俺のことを見つめてくる。

 なんかドキドキするな。


「あはっ、わかりましたよぉ、『無知無明の大将ペダンチックマウンティング』です!」

「んん、お、おぅ…… そうか」


 なんか、ちょっとアホそう…… 大賢者っぽくないなぁ。

 ただチャリスは、褒めて欲しそうな顔をしてる。


「あぁ、ありがとう…… チャリス、お前、これからどうしたいんだ?」

「どうするも、私には、何も残ってないので……」

「はは、悲しいこと言うなよ。クマたんはいなくなったわけだし、俺と一緒に来ればいい」

「あふぇっ…… はい! ご一緒します」


 チャリスはゾワつく目を閉じ、一粒の雫を輝かせながら、ニコッと笑っている。

 一緒…… か。前の世界のことを少し思い出す。今度は、しっかりしないとな。


「ひとまず、飯食おうぜ」


   ◇◇◇


「もっとぉ、んーーー、もっとぉぉぉ♪」


 うんうん、そうして、チャリスは俺の一番弟子になったんだったな。

 お陰で、こんな凄まじい攻撃魔法も軽々しくできるようになっている。

 自慢の弟子だ。

 ブラックホールみたいなのからも、なんかジェット気流みたいなの出てるし。

 もしかしたら、俺はもうすぐクマたんに会うことになるのかもしれんなぁ。

 正直、クピディが、謎をチラつかせてきたから頑張ってきたけど、まだ分からないことだらけだ。

 魔王は倒したはずだし、確かにあいつは可愛いものが好きではあったわけだが。

 ただ、自分達への理解は深まってきた。

 理は変わってる。それは俺のせいじゃないのかもしれない。だから尽力してきたが、その検証は道半ばだ。必要行程にふざけ過ぎてしまった、情けない……


「うえぇっ、チャっ…… チャリっち、何してるんすか?」


 声の方に目をやると、漆黒の塊の下で愉悦に浸っているチャリスの背後に小さな人影が見えた。

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