第18話 チャリスのお気に入りのぬいぐるみです
結界! イカイ! 界! カイ……
俺は、一心不乱に、大小の結界を張り巡らしていく。
「あはぁぁあん、何これぇ、最高ですぅー」
「ンガヌグゥゥゥ、チャリス…… ちょっと自分で俺につかまっててくれ」
「ふぁい♪」
チャリスは俺の腰に手を回し、顔を擦り寄せてくる。
見る余裕はないが、きっとチャリスは、快楽の表情を浮かべ、この黒くうねる海原に見入っていることだろう。
俺は、この世の阿鼻叫喚とチャリスの高らかな笑い声の二重奏の中、気が狂いそうになりながら、目の前の事象の収束に全力を尽くしていった。
◇
「チャリスさーん、生きてますかー?」
俺は日が沈み始め、蒼然としていく空を眺めながら、デジャブな状況にため息をつき、大きく窪んだクレーターの中で寝転がっていた。
…… あぁ、腹減ったなぁ。
「リテラ様ぁ、もういっか――」
「――無事でよかった」
俺は、予想のついた言葉を遮り、起き上がった。
もう、様でも先輩でもよくなってきた……
辺りを見渡すと、チャリスは、思い出に酔いしれながら、横へ縦へと転がっていた。
服もボロボロだけど、前よりは服として成り立っていそうだ。
「クマたんは……?」
「いなくなっちゃいましたね」
うむ、クマたんはきっと時空の歪みの中で星にでもなったんだろう。
しかし、辺り一面何もない。あの大きな木だけが、今にも倒れそうにしながら残っているだけだ。
あの綺麗な自然が、山々が、むしろここは、カップアイスの一口目をすくい終わったかのように、綺麗に凹んでしまっている。
観光名所にでも後々なってくれれば、まだ救いようがあるものだが…… 需要ないか。
「さて…… 腹も減ったし、水浴びもしたいし、最後にあの木に用事を済ませてくるか」
「木? うちのことですか?」
「え? あれが家なの? あの中にクピディいなかった?」
「? クピディ様はいないですよ…… あの中には、本とぬいぐるみがあるだけです」
そのぬいぐるみがクピディなんじゃないだろうか。
分からないが、メルヘン化の影響で、チャリスの半覚醒で、ビビってぬいぐるみのふりをしてるんじゃないのかな。
まだ、あの木から魔力が感じられるし、クピディはきっとそこにいる。それはチャリスも感じてるんじゃないか。
「とりあえず、そのぬいぐるみに会わせてくれよ」
「? いいですよ。ぬいぐるみさんには、クピディ様の魔力が染み込んでて、安心するんです。チャリスのお気に入りです」
俺たちは、大きな木の麓に歩いていく。
チャリスが、大きな木の幹に手をかけると、ドア状に亀裂が入っていき、中に入れるようになった。
中に入ると、暗がりでよく見えないが上の方までおそらくびっしりと敷き詰められた本が出迎えてくれる。
この時代に、これだけの本を…… チャリスの底が知れないわけだ。
やはり、クピディとは気が合いそうだな。
「お前ら…… 死ぬかと思ったぞ」
奥の暗がりから声が聞こえてくる。
「さすがだ、お前の魔法のこの変な効果も身に受けてわかってきたぞ、これは副次効果か別の何かだろう」
何を言ってる?
暗がりに少しずつ慣れてきて、ぼんやりと耳の長い輪郭が見えてくる。
チャリスが、それに触れようと小走りに駆け寄って行く。
「お前は利用されてる可能性がある、勇者、リ――」
急に、木の上から、閃光が差してくる。
チャリスがその衝撃で光の中から吹っ飛んでくる。
目が慣れてくると、そこにはピンク色の矢が頭に突き刺さったゴブリンのようなぬいぐるみが転がっていた。
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