第15話 チャリスはドラすごいのです

 チャリスの周りには可視化できるほど、魔力が堰を切ったように溢れ出し桃色にたなびき、身に纏うセーラー服も心地良さそうに妖艶に彩られ揺らいでいる。

 チャリスの杖からは、光球たちがまるで遊びにでもいくかのように意気揚々と先端から解き放たれていく。

 自分の魔力に、包み込む魔力に、敵対する魔力に、酔いしれながら次々と魔法を繰り出し、爆炎と閃光と時折煌めくプリズムがチャリスの周りを包み込んでいく。


「あはぁ、リテラさ――」


 チャリスは、急にキョロキョロとしだして俺と目が合うと、可愛いと怖いが共存している、そんな全開のいびつな笑顔を向けてくれる。

 また、自分の世界だけに、自分だけになってしまったんだとでも思ったのだろうか。

 まぁ…… 俺にも攻撃はきてるんだけどね。

 むしろクマたんより、俺の方が比重多いんじゃないだろうか? と問いかけたいくらいに。

 クピディは、いなくなったんじゃなくて、チャリスが怖くて逃げ出してるだけなんじゃないかとも思うわけだ。


「あふぇ♪ リテラ様ぁ、ドラすごいですよー」


 ドラすごいって…… ドラゴンすごいの略って聞いたことあるけど、この世界ではじいちゃん、ばあちゃんしか使ってんのをみたことがない……

 俺はどえりゃあを、昔他の異世界人が流布させたんじゃないかとも思っている。


「チャリス! リテラ様じゃない、リテラ先輩だ。これはとても重要なことだ」

「はぁい♪ リテラセンパイ♪」

「あとあんまり魔法を湯水の如く垂れ流すなよ? 魔力は溢れ出していたとしても、体力は有限だ」

「もっと生々しく、もっと甘々しく…… もっとこうリテラセンパイの魔力に……」


 チャリスは、溢れ出す魔力に没頭してしまってる。だからこそ、可視化できるほどの魔力を引き出せているのだろうが。

 通常はそんな簡単に自分をさらけ出せるものじゃない、何人かで試してみたからわかる。人は良くも悪くもいろんな要因に影響を汚染を受けている。だからこそ人類は社会を文化を形成できているとも言えるが。

 チャリスにとって閉鎖的で異質だった環境での生活が、今回の件に関しては良い面で働いていたのかもしれない。


 ――モニュん


 忘れるなと言わんばかりに、クマたんの攻撃も継続して繰り出されていく。

 チャリスは、俺が張ってあげている結界も結構な頻度で嬉々として自分から破壊していく。

 チャリスの攻撃も甚大ではあるが、渦を使い移動するクマたんには届いていない。


「あふぇ♪ 逃げないでくださいよー。クマたんも一緒に壊れましょうよー」


 相変わらず、俺にも攻撃が来ていますよ、チャリスさん。クマたんと一緒に壊れて欲しいってことかな?

 うむ、まぁ、男である以上、セーラー服にいろんなものを壊されていくのも悪くないのかもしれない。

 それにしても今までチャリスだけに向いていた黒紫の斬撃は、俺にも向くようになってきている。

 これはチャリスが魔力を引き出せるようになってからだ。明らかにクマたんの行動パターンが変わっている気がする。そこが気になる。

 毛玉かなんかと勘違いして俺の「ボカン」頭にじゃれついているわけではないだろうに。

 それに、クマたんが出現した時から、時折、魔力注入機の近くにある大きな木から魔力を感じる。

 チャリスがこれだけ魔法を乱発し、周囲が倒木し土埃をあげ見晴らしを良くしていく中で、あの木だけところどころ燃えてはいるが健在なのも気になる。

 

 さてさて、ひとまずチャリスも魔力を引き出せたわけだし、俺は俺の楽しみ方をするとしよう。

 まずはクマたんか。

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