第14話 チャリスは愛し壊すのです

 俺は、体勢を崩しているチャリスに襲い掛かろうとするクマたんに、杖を向け暗雲を募らせていく。

 群がらせた暗雲を凝縮させていき、雷撃を胎生させるも、残っているのは黒い渦だけだ。

 少し離れたところに白い渦が出て、クマたんだけが見える。

 やはり、普通に攻撃を繰り出すだけではダメそうだ。


「あはぁ、この魔力を……」


 チャリスの魔力が再び上がっていくのを感じる。

 やはり、チャリスは魔力への好意というか依存が激しいように思う。

 何らかの法則はあるかもしれないが、少なくとも俺やクピディの魔力に反応して上昇するのは確かそうだ。それは好意や尊敬、そう言った類の欲求だろうか。


「チャリス、倒す相手だからと言って、憎む必要なんてない、そんな決まりはないんだよ?」

「でも、クピディ様は…… 殺す相手は憎まないと、そこから良質な魔力が生まれるんだって」

「何回も言うが、クピディの考えは一側面だ。あらゆることは多因子が関与してる、そんな単純なものじゃない。だからこそもっと楽に、欲するがままに、自由闊達にいっていいんだよ」


 チャリスは、少し深刻そうな顔をしてる。

 そんな顔よりは、まだ半笑いでゾクゾクしてる方が幸せそうだろうに。

 この子は、裸は隠さなくても、根っこのところでは、自分の欲求は、本心は、隠そうと恥ずべきものだと思っているのかもしれない。


「雲が綺麗にどよめいていた夜、私は魔力を引き出せた気がしたんです。だから好き勝手に放出した…… そしたらクピディ様はいなくなってしまったんです! もう、私は1人はイヤなのです! 私が…… チャリスが不純だから!」


 いつまでも、他人の魔力に依存している方が不純だろう。

 しかも今ならセーラー服の特典付きだ。

 まぁ、不純かどうか、善か悪かとか、正しいかどうかなんて、モラルに、その時のコミュニティに、外的要因によるところが大きい。

 そういうものをこそぎ落とした、自己実現できるような、利己や利他を超越したような、裸の自分を曝け出すこと、それが自分の源泉への入口だ。


「少なくとも、俺はいなくならないよ。限られた情報の中で勝手に世界を狭めるな。チャリスの思ってるより、世界は寛容で曖昧だ。チャリスの欲求を曝け出せ」


「私の…… 欲求、ですか?」

「俺にとっては『無知』、クピディにとっては『憎しみ』に関するもの、チャリスにはチャリスの譲り難いものがあるはずだ」


「…………」


 チャリスは、一点を見つめ、静かに口を開いていく。



「愛していいんですか……?」

「あぁ、それがチャリスの望みなんだろう」



 空気が揺れていく。



「壊していいんですかぁ……?」

「こわ、す……? う、うん。まぁ、いいんじゃないかな」



 ということは、俺やクピディのことも壊したかったのかなぁ、いや、まぁ、とりまここは受け止めよう。


 チャリスのルビー色の瞳は、漆黒の炎でも灯したようにゾワゾワしていく。

 赤色の中に黒色も混じるツインテールを浮き上がらせ、はためかせている。

 口元はいびつに歪み、異様な半笑いを浮かべていく……



「あふぇ♪」

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