第6話 チャリスは大賢者を疑うのです

 木立を縫う朝日に顔を照らされ、小鳥の囀りを聞きながら俺は目を覚ました。

 なんだか足の重みを感じて下を向くと、チャリスが俺の太ももを枕にして大の字になり寝ていた。


 ……なんだよ。全然、座らないで寝れてるじゃないか。


 少し苛立ちを覚えながらも、すやすやと幸せそうに眠るチャリスの寝顔は微笑ましい。

 お姫様推しではあるけど美少女に目のない俺としては至福の時だ。

 足をプルプルっとゆさると、チャリスの柔らかいほっぺなどが、心地よく揺れている。


「はふぇ、あ、あふぁ、おはようございます」


 チャリスはまだ夢と現実の狭間のような表情をしている。

 チャリスがゆっくりと起き上がると共に、特有の匂いも漂ってくる。

 そうだ、こいつ、なんか匂うんだった。


「チャリス、お前、ちょっと匂うぞ」

「……!?」


 寝起きで、気持ちよく伸びをしていただろうチャリスは、思いがけない言葉に急に身を翻してくる。


「あぁあ朝から、なんてひどいことを……。た、確かに最後は、1週間前でしたし……そろそろ入ろうとは思ってましたよ!」


 ……1週間前か。そりゃ匂う。俺も未体験ゾーンだ。

 この世界の人類も、それなりに衛生面は最初の世界と近いところがあるのに。

 魔族と何年暮らしてるか分からないけど、この子から人類の文化、社会の通式的なものは、剥がれてしまってきているのかもしれないな。


「まぁ、気になったことは確認したい性分だからさ。それに他にも……」


 チャリスには、俺の言葉は届いていないようで、しきりに自身の匂いの確認に勤しんでいる。

 まぁ、いい匂いかはともかく、不快なほどではなかったことだけ付け足しておこう。


「チャリスは、これからどうするんだ?」

「私は、クマたんを倒さないとこの森から出ちゃいけない、それが一人前だって、というか出ていけないのです。クピディ様と約束してるんです」

「……クマたん?」

「森の主です! 急に入れ替わってしまって……でも、強さは本物なんです!」


 クマたん……きっと、これもメルヘン化の影響なのかもしれない。

 確認作業だったとはいえ……完全なる私情だ。この世界には多大なる迷惑をかけてしまっているようだ。

 世界が平和になった今、俺は自分の過ちに対して償っていかないといけないのかもしれない。


「要は強くならなきゃってことだよな? 俺が付き合おうか?」

「……し、失礼ですが、リテラ様は……お、お強いんでしょうか?」


 チャリスは悩ましげに疑うような表情で俺を見ている。


「い……一応、肩書きは、大賢者なんですよ……俺」


 確かにこいつに対して、俺はほとんど魔法を使ってないけど。

 なんだか恥ずかしくなってしまった。

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