第5話 チャリスはいい匂いなんです

 俺も小屋の扉に寄りかかり、チャリスの視線の先の星空を見上げる。

 ここの世界の星空は、透明感と幻想感がある。さまざまな衛星が肉眼でも見えるこの世界の星空は、確かにとても綺麗だ。


「……チャリスは星が好きなんだな」

「星空は、いろんなものがつながっていそうな気がしますし、魔力の見え方に似ていて綺麗で美味しそうで、それに憎しみからも解放されるんです」

「美味しそうってなんだよ? てかやっぱ憎しみたくないんじゃないか」


 チャリスは、殺されないと分かったのか、安心したのか、少しずつ素が出てきている、そんな気がする。


「憎しみを持たないと、クピディ様に叱られてしまうのです……」

「まぁ、虫食って、星眺める元気は出てきたみたいで何よりだよ」

「ぅむむむむ、ク、クピディ様の魔力があれば、負けないんですー」

「へー、そいつは魔力を譲渡できるのか」

「機械で注入してくれているんですが、それはもうおいしくて病みつきで快感なんですよー」


 チャリスは、何やら身を震わせ、恍惚な表情をしている。

 魔力が大好物なんだな、この子は……


「それでクピディは、どこにいるんだ?」


「クピディ様は、1週間前に消えてしまって。もしかしたら、魔力を生み出せない私に嫌気がさして……」


 消えた? 別にそれは嬉しいことではないのか。なぜか、チャリスは悲しそうだ。

 先程から、クピディに関して、チャリスは負の感情をあまり持ってないように見える。


「かもしれないってのは、どういうことだ?」

「その日は、急に辺り一面不規則に波打つ色とりどりの雲が空を覆っていました。私はそれに見とれて……あれは絶景で、引き込まれてしまって……それで、気付いたらクピディ様は姿を消してしまっていて……」


 一週間前……アスペラトゥスか!?

 ここもその影響がきてしまってるのか……

 なら……それは俺のせいだ。

 クピディもおそらくメルヘン化を受けているんじゃないだろうか。


「チャリス、もしかして……」


「……クピディ……様ぁ」


 チャリスは、疲れてしまったのか、魔力を出し切っていたからか、お腹いっぱいになったからか、眠ってしまった。


「まぁ……そのうち分かるか」


 俺は、眠りこけて倒れそうになっているチャリスの隣に座り、肩を貸してあげた。

 確かに、星空を眺めながら寝るのもいいかもしれない。

 そうやって余韻に浸っている俺の時間に対して、なにやら鼻腔を襲う違和感が邪魔をしてくる。


 …………この子、ちょっと匂うな。

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