第4話 チャリスはベッドでは寝ません
「さてと、もう時間も遅いし、夜営の準備でもするか」
俺は、月と雲が奏でる星空を見上げながら、杖を振り上げ、周りの解析を始めた。
チャリスは、もうこの世の終わりなんじゃないかという顔で木に寄りかかりつつも、杖だけはぎゅっと握りしめている。
「えっと……この辺の木々は、スアビスか。貴族御用達の木材じゃないか。そしたら、スペレおじさんから教えてもらった話が参考に……」
俺は、ブツブツ言いながら次々に魔法を構築、実行していく。
木々を引っこ抜き空中で木材に削り、浮遊させ組み立て、作業をこなしていく。
ふと、ゾクゾクとした視線を感じ、そちらに目をやると、チャリスは杖にちょこんと顎を乗せ、口をモゴモゴさせながら、ルビー色の赤い瞳で俺のことを凝視している。
その目はやはり、キラキラというよりはゾワゾワというか、寒気を覚えるような目つきだ。顔が整っているせいでより際立つ狂気さがある。
◇
「ほら、できたぞ、まぁ、突貫の掘立小屋だけどないよりはいいだろう。チャリス、お前も入りなよ」
「……わ、私は殺されるのでしょうか?」
チャリスはゾワゾワした目とは打って変わって、目を潤ませており、杖を持つ手は震えている。
「なんだよお前、アップダウンが激しいな、そんなに殺されたいのか? 魔族とか人類とか、そんなのはどうでもいい。ここには俺とお前しかいないし、俺は俺だし、お前はお前だ。ルールも常識も何もないだろう」
きょとんとしたチャリスを置いて、俺はひとまず小屋に入りながら、内装を見渡す。
狭いけど、まぁまぁじゃないだろうか。
そして、あることに気づく。
……ベッド……1個しか作らなかったな。
でもまぁ、しょうがない、わざとじゃない、それにエコだろう。
添い寝して、暖をとって、ギュッとする、素敵な夜。
まさにSDGsな夜じゃないだろうか。
「ん、あぁ、チャリス、疲れてそうだしベッドも作ったからゆっくり休むといい」
チャリスは、木に寄りかかったまま首を振っている。
「私は、いつも座って星を見ながら寝るんです」
……ちくしょう! 野生ぶりやがって。
「そういや、腹減ってないのか? パンくらいなら持ってるけど」
「木の中にたくさん虫がいましたので、魔法を見させていただきながら食べてましたよ、まだウジャウジャいますけどいりま――」
「――ごめんなさい」
俺は被せ気味に断った。
……やっぱ、こいつは魔族なのかもしれない。
不思議そうな顔をして体育座りしているチャリスの太ももからは、紋章がチラチラ見えてきて、まるで俺のことを嘲笑っているかのように見えた。
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