第3話 チャリスは憎まなきゃいけないんです

 俺は自分の仮説を解消できたことに満足すると共に、女子のスカートを捲りあげているかの行為に気づき、ささっと杖を引き戻した。

 この癖やめないと、いくらここが異世界だとしても社会的にやばい。

 まぁ、もう居場所なんてあってないようなもんか。


「クピディ様は、人間を何もかもを憎んで強くなれと、私に紋章がある限り、それが証明となるんだと……」


 チャリスはなにやら深刻そうな面持ちで語り出している。

 隠そうとしてた紋章を無理やり見たのも、ローブを急に捲ったのも俺が圧倒的に悪いが、よくわからない思想の押し付けはごめん被りたい。


「……お前が何を選択していくのかは自由だが、一側面だけを鵜呑みにしているんなら、改めた方がいい。チャリスはそれで納得してるのか?」

「クピディ様は、全てを、魔力あるものを憎めと、それが至高だって」


 クピディ? ふざけた紋章だったし、カバディみたいに陽気な感じなんだろうか?

 そのくせ憎めか……魔族は何でもかんでも陰険に解釈したがるやつが多い。

 パンカーネア運動だって、魔族の中の強者至上主義者の思想の末路だ。

 魔族の支配下になった人類の町や村でふるいをかけ、生き残った人たちを魔族と認めるという悪しき風習。

 生き残った人たちには、イグノラントスタイルの紋章が刻まれる。

 チャリスの場合は、ふざけたスマイル……その時の光景がなんとなく目に浮かぶようで吐き気がする。


「憎まなきゃ、殺さなきゃ……」

「そんな声に出さないと認識できないようなものならこだわる必要ないだろうに……それともなにか、お前はそれが本当にお望みなのか?」


 俺が引き金を引いてしまったとはいえ、ここは一旦少し威嚇して場を落ち着かせたほうが早そうな気がする。

 俺は、杖の先端に小さな稲妻を纏わせ――


 ――――!?


 ゾワっとした感じを受ける。


「ぅんぁぁぁ、綺麗な魔力ぅ……」


 視線を移すと、チャリスは、何やらブツブツ言っている。

 赤い目をゾワゾワさせ、不敵な笑みを浮かべ、握りしめていた杖からは光が放出し、太陽のような眩しさを募らせながら肥大していく。

 夜の森は、転じて真っ昼間のように視界が広がっていく。


「こいつは……どうした……」

「ぅぅぅ、憎まなきゃ……殺さなきゃ……私は……」


 ――パスん……


 光の塊は、その音と共にまるで線香花火のように儚く砕け散ってしまった。

 チャリスも崩れるように膝を落としている。


 ……え?

 なんだったんだ、接続は問題なさそうだったし、イメージも……魔力不足……だろうか?

 ほとんど言語化されていないこの世界の魔法の理解はやはり難しい……


「ぅぅぅ、また、ダメでひた」


 チャリスは、杖にもたれかかり、柔らかい頬が引っ張られ、つきたての餅みたいな顔になっている。

 なんだか、不憫だ……この子。

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