第2話 チャリス覗かれました
俺は空間が歪みそうな現実に、そっと蓋を閉めてチャリスとの出会いを思い出していた。
今から、3年前くらいだろうか、俺は、魔王を倒した後、色々あって、傷心旅行をしていた頃のことだ。
◇
俺は、おそらく丸一日くらい、多分腑抜けたツラの放心状態でふらふら彷徨い歩いていた。
――ガサガサッ
その音と共にふと我に帰り、何かがさっと動いたような感覚を覚えた。
んん、ここはどこだろう?
鬱蒼と生い茂った木々の中、おそらく街道的なところからは大きく外れているようだ。
今は夜だが、燐光のように輝く月明かりのおかげでまぁまぁ明るい。
この世界での月的なものは結構大きく、夜空を彩り、夜の時間を快適にしてくれている。
俺は杖を構えながら、音のした方向を注視し身を屈めてみる。
よく見ると、木々の下あたりのくぼみの中の暗がりに、白っぽい影が見える。
俺は、その白い影をコンコンッと杖でこづいてみた。
「ヒャン!」
可愛らしい声が夜の闇を心地よくしてくれ、赤い鮮やかな髪の頭が木々を突き抜けて出てきた。
「ん? ……人間? の女の子?」
「……え? ひ、人!?」
赤い瞳を少し潤ませながら、少女は、振り返り木々の中から出てきた。
ボロ雑巾……ローブのようなものを身に纏い、おそらく中学生くらいだろうか、杖を携え、少し身構えている。
「この辺に村とかあったのかな? 君も道に迷っていたとか?」
「わ……私は、この森に住んでるんです……あ、あなた様は、人なのですか?」
森に住んでる? しばらく森で彷徨うことになっていたんだろうか。
しかし、しきりに人と確認してくる。
そんなに人外みたいな、生理的に受け付けない顔に見えるんだろうか。
確かに、この世界での魔族は、人間と見た目が同じようなものも多いのは事実だが、少しショックだ。
というか、魔族という括り自体が曖昧な感じだし、人類にとって都合のいい押し付けだと俺は思っている。
「俺は、魔族ではないよ。王都から歩いてたと思うんだが、実は俺も迷ってしまっていてね」
「……ひ、人なのですね。わ、私のお尻をつついた時、見ましたか?」
お尻? 見た? 何を? 俺がつついた白っぽいもの……え? パンツ? パンツ覗いてたと思われてるの? 俺……
「い! いや、パンツは見たかもしんないけど、不可抗力だろう!」
「……え? パンツですか? そんなものは見られて大丈夫ですよ」
ん? え、見ていいの?
よく見ると可愛らしい顔をしてるし、中学生くらいとはいえ、将来有望そうな小ぢんまりした膨らみたちといったら、妄想族の俺の手にかかれば――
いやいやいや、さすがに、まだ若すぎる、犯罪だ、いやこの世界では犯罪じゃない、モラルか? そういう問題なの――
「……見ていないのでしたら、すみません。人とお会いするのは久しぶりでしたので」
「久しぶり? ご両親たちは?」
「……両親は、パンカーネアが行われ……それからはこの森に……」
……パンカーネア? 魔族の選別のことだ。魔王が諌めてたはずだし、主導して復活させようとしてたスファ爺の野郎は俺が倒した……この辺りではまだ残ってたってことなのか?
パンカーネア運動が活発だったのは、確か10年くらい前だったはず……俺の転生前の話でもある。
ん……そうか……見ました? ……か。
俺は、少し安堵している少女の隙を突き、ローブの裾を杖で捲り上げた。
「ヒャ! な、何をされるんですか!?」
少女は、急いで手で阻止しようとするが、もう遅い。
白く艶艶しい左の腿の辺りに、ふざけて笑うシンボルのような紋章が刻みつけられているのが見える。
「……魔族入り……か。そういえば、まだ名前も聞いてなかったな。俺はリテラだ」
「わ……私は、チャリスと申します」
チャリスは、体を震わせ、緊張で顔を強張らせながら、俺を見て強く杖を握りしめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます