第11話 チャリスは水浴びの準備をします

 チャリスは、話が通じるようで通じないところがある。

 偏った教育だったのか、魔族として育てられたせいなのか、クピディは、あまり悪いやつではなさそうだが。

 まぁこの子は、講義形式よりアクティブラーニング的な方が合っているのかもしれない。


「も、もしかして、私……また匂ってますか?」


 チャリスは、鼻のあたりに軽い拳を作って考え込んでいた俺を見て勘違いしたようで、また自身の匂いを気にし出していた。


「いや別に――」

「あっちに川があるんです! 私水浴びしてきますね。リテラ様も入りますか?」


 そう言って、俺の目の前に座っていたチャリスは、俺の顔に布を触れさせながら、万歳をし綺麗な脇を露わに、身をくねらせてローブを脱ぎ出していた。

 俺の目の前には、チャリスさんの白い発展途上のたわわがたわわんと、たわわしていた。


「んべっ! おま、何やってんの?」

「クピディ様とは、よく一緒に水浴びをしてたんですが…… 1人派でした?」


 チャリスは、脱ぎかけのローブを巻きつけた腕を下ろして、綺麗に浮き出た鎖骨としなやかな肩を日に照らしながらキョトンとしていた。


 クピディ…… いい趣味してる。

 この子は、なんか色々と、人類の文化を個人的にとてもいい方向に裏切ってくれている。


 ――モニュん。


 モニュん? 俺無意識にさわ……

 ん…… この世界って、そんな擬態語…… オノマトペが具現化する世界だっけ?


 ――パリパリ


 !? ちがっ――

 1、2、3ま…… 結界が壊されていってる!?


「もう、こんなじか、ンキャッ」


 俺は、咄嗟にチャリスを抱きかかえ、空中へ離脱する。

 目の前の理想郷に夢中で、自分に付与していた結界の発動に気づかなかった……

 なんだ? あの白い渦の前で蠢く物体は……

 両手に自然と力が入る……


「ヒャン!」


 チャリスを見ると俺の左手が、ちょうどジャストサイズに右側のチャリスさんをしっかり掴んでいる。

 しかし緩めると落としてしまいそうだし、そんな手の強弱の確認作業をしてる間も、チャリスは膝を擦り合わせながらモジモジしている。


 ――モニュん。


 また、白い渦と共に現れ、モフモフした物体は攻撃を仕掛けてくる。

 なんなんだコイツ!

 俺は、結界を張り巡らしていく。


「ゥンッ! あぁ…… リテラ様から魔力が溢れてますー! この状況が『ムチ』なのですねー!」


 チャリスは、恥じらいながらも、ゾワゾワした視線を送ってきている。


 あー! もうなんか色々めんどくせー! 事象が渋滞している!

 確かに無知だ、無知だとも! できることなら俺だってゆっくりとマシュマロとの対話を、探求を、余韻を楽しみたい!

 でもこれじゃどれから処理していいかわからない!


「このモフモフはなんだよ!」

「あはぁ、クマたんの時間ですよぉ」

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