第5話 見間違い!あんなの絶対見間違い!

「試験エリアにはまだつかないんですの~。わたくし歩き疲れましたわ」

「理夜さん頑張って。あそこの角曲がったらもうすぐですから」

「いくら何でも遠すぎですわよ!!VR空間ならせめて移動はもっと快適にするべきなのでは!!」


試験エリアへ向かう道中、二人はそんな会話を続ける。

今二人が向かっている試験エリアは「考え抜く力」の試験が行われるところで、最初の試験をどこにするか二人で話していた時、理夜がどうしても最初はここに行くといって譲らなかった。


(マップを見てみると私たちが最初にいたところからちょっと遠いのに、どうしてかたくなに最初の試験は「考え抜く力」を受けるって言ったんだろう)


奏は目の前で試験エリアの遠さに文句を言っている理夜を見ながらそんなことを考えていた。

そうして歩くこと数分、二人の視界の先に灰色の体育館のような見た目の建物が姿を現す。


「あ、理夜さん多分あの建物が試験エリアですよ」


奏がそう言うと、さっきまでくたくたな顔をしていた理夜の顔が一瞬で笑顔になる。


「やっと出てきましたわね、奏さん早く行きましょう!わたくし達ならこんな試験余裕ですわ!」

「あ、ちょっと待って~」


奏は理夜のあの異様な自信が一体どこから来るのか考えながら急に走り出した彼女を追いかけた。


「たのもー!!ですわ!!」

「そんな道場破りみたいな入り方しなくても」


奏は理夜にツッコミを入れながら建物の中を見渡す。


(だいぶ大きな建物だけど、部屋全体が灰色で殺風景だなぁ。何か変わったところがあるとしたら、ちょっと見えにくいけど奥の方に恐竜がいるだけ……ん?)


一瞬自分の視界に映ったありえない者に困惑する奏だが、すぐにそれは見間違えであると自分に言い聞かせる。


(見間違い!絶対見間違い!!こんなところにあんなのなんているはずない!)


「奏さん何か見たんですの?」


理夜のその声を聴いて奏はハッとする。

気が付けば腕に少しの鎖が巻き付いており、奏の思考を移す例のディスプレイもいつの間にか表示されていた。


「いつの間にマインドが……理夜さんこれいつから発動してた?」

「この建物に入って奏さんがあたりを見渡している途中に発動してましたわ、だいぶ困惑してるように見えましたけれども大丈夫ですの?」

(じゃあ私があの変なものを見たときに発動したと考えるのが妥当……こうも頻繁に発動するならどうにか対策しないと)


奏は自分のマインドに対する考察を深めながらも、隣で心配してくれている理夜に声をかける。


「一瞬変なのが見えたんだけど、たぶん見間違いだから大丈夫……」


奏がそこまで言うと部屋中に、大地を踏みしだくことなど造作もなさそうな重く鈍い足音が建物中に響く。

奏と理夜はその足音が聞こえた方向に視線を移す。

そこには、全身が灰色のティラノサウルスのような生物が二人の様子をうかがっていた。


「見間違いじゃなかったーーー!!!」


奏の絶叫にも近い声が建物内に響くと恐竜のいた方向から子供のような声が聞こえる。


「そんなに怖がらなくても大丈夫。こいつはお姉さんたちを食べたり襲ったりしないから」

「奏さん!!この恐竜しゃべりましたわよ!きっと知能も高いですわ!」

「いや、たぶん恐竜がしゃべったわけじゃないと思うんだけど」


2人がそんな会話をしていると恐竜の背中から白い髪の小学生ぐらいの背丈の少年が下りてくる。


「お姉さんたち元気だね。僕ここ数時間試験を受けに来る人がいなくて暇だったからお姉さんみたいな人は大歓迎だよ」


白髪の少年は首元にかけている銀色のストラップをひらめかせながら嬉しそうにそう語った。


「えっと、あなたは一体。多分受験生じゃないよね」


奏がそう言うと目の前の少年はしまったと言わんばかりの顔をする。


「そう言えば自己紹介がまだだったね。僕の名前はスィンク。ここで行われてる「考え抜く力」の試験の試験官AIだよ」

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