第6話 鎖のように巻き付く不安と虹のような勇気の笑顔
「僕の名前はスィンク。ここで行われてる『考え抜く力』の試験の試験官AIだよ」
目の前の白髪の少年はそう言って奏たちの方をニコッと笑いながら眺める。
「貴方が試験官AI……見ためは小学生ぐらいなのに」
奏は試験の説明に当たっていた試験官AIの見た目が大人の女性であったため、目の前の少年が試験官AIであるという事実に少し驚いていた。
「確かに見た目だけの話をしたら僕が試験官っていうのはお姉さんたちには違和感かもしれないかもね」
そこまで言うとスィンクは今までのニコッとした笑顔とは違う、不敵な笑みを浮かべてポケットから何かを取り出す。
「でも、今からやる試験はそう言った固定概念は捨てて自由な発想をしたうえで動かないと
クリアできないかもしれないよ」
そう言って、取り出した灰色のおもちゃの銃を奏に構えてみせた。
そうして少しの沈黙が流れる。
「あーもー、わたくし難しいことは分かりませんわ!あなたが試験官なら早く試験をはじめましょう。わたくしと奏さんの二人で軽く葬ってあげますわ!!!」
沈黙に耐えかねたのか、そもそも試験がしたくてたまらなかったのか、理夜は声を上げながら自信満々に試験クリア宣言をスィンクにしていた。
「ふふ、そっちのお姉さんは自信満々だね。それじゃあ試験を始める前にこれをお姉さんたちにプレゼント」
スィンクがそう言うと、奏たちの手にさっきまでスィンクが持っていたのと同じおもちゃの銃が生成される。
「この銃はすっごくてさ、使用者が頭の中で描いてるものが銃口から発射されるんだ」
スィンクはそう言いながら誰もいない方向におもちゃの銃を向けて発砲する。
すると、その銃口からはコンクリートで造形されたように感じる灰色をしたプリンが勢いよく飛び出して壁に当たり、その後消滅した。
「このエリアで行う『考え抜く力』の試験は、この銃を使って僕の後ろに立っているこの恐竜を倒すこと。倒すことができれば試験クリアだよ」
「倒すだけでいいんですの?それなら兵器でもなんでもこの銃から出してあの恐竜をぶっ倒してやりますわ!!」
意気揚々とそう宣言する理夜とは対照的に奏は腕を組みながら考え事をしていた。
「多分なんだけど……今の話だけじゃ試験としては成り立たないと思う。これは私の勝手な考えだし違ってる可能性も大いにあるけど、その恐竜を倒すのに何かルールがあるんじゃないかなぁ」
奏がそう言うとスィンクは指をパチンと鳴らしながら、奏の疑問に応答する。
「お姉さんよくわかったね。実はこの恐竜にはある法則にのっとって入るダメージが変わっていく使用になってるんだよ。これがこの試験の最大のポイントにして一番楽しいとこ」
スィンクはそう言いうとぷかぷかと宙に浮いていく。
「お姉さんたちは試験の中で恐竜のダメージの入り方の法則を考えて探しだす必用があるんだ。じゃないとまともに恐竜にダメージが入ると思わない方がいいよ」
スィンクのその言葉に、奏は多大なる不安を感じていた。
試験中に法則を見つけて、条件をクリアする。
自由な発想、恐竜にどうダメージが入るかのデータ集め、そのデータをもとに法則を考える。
考えただけでも出来る気がしない。
普段学校でしているような試験とは全く違う。
答えもそこにたどり着くまでの解法も自分たちで考えなければいけない。
私にこんな試練がクリアできるのか。
そんな不安が奏の中でぐるぐると渦巻いていた。
その不安に呼応するように奏の身体に鎖がまとわりついていた。
「大丈夫ですわ!!奏さん!」
奏の中の負の連鎖の思考を打ち破ったのは理夜の声だった。
理夜は奏の両肩を優しく掴んで話を続ける。
「奏さんはいち早くこの試験の本質を見抜きましたわ。
わたくしなんて強い弾丸で蹂躙すればいけると思ってたんですのよ。
あなたは考えることに関してきっと誰にも負けませんわ。それでも不安で不安で仕方がないというのでしたら……」
理夜は笑顔を向けて奏に力強く宣言した。
「わたくしが必死に動いてあなたを安心させますわ!!」
屈託のない笑顔でそう言う理夜の言葉を聞いた後、奏は少し笑みを浮かべ、奏の身体にまとわりついていた鎖は腕の部分を除いて溶けるように消滅していった。
「ありがとう、理夜さん。まだ少し不安だけど……あなたにもらった分の勇気は絶対試験の結果で返す!一緒にクリアしよう」
「ええ、その意気ですわ!!」
2人はそう言うとそれぞれおもちゃの銃を構えて目の前の恐竜に視線を向ける。
「お姉さんたちも準備は万端みたいだね……それじゃあ制限時間は30分『考え抜く力』の試験開始!!」
スィンクのその掛け声と共に、奏たちの『考え抜く力』の試験の幕が上がった。
試験終了まで、残り30分
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