第4話 わたくしとチームを組みませんこと?

「あ、えっと……大丈夫確かこんな時はたしか」


奏は震える声でそう言いながら頭の中で思考を逡巡させる。

それに呼応するように、奏の周りに大量のディスプレイが表示される。


『失敗したときの挽回方法』「円滑なコミュニケーションをとる手法」

『初対面の人に話しかけるには』

『焦った時に心を落ち着かせる方法』


ディスプレイに表示されるのは奏の思考や「私特性対策ノート」にメモしてあった内容ばかりだった。

知らない人間の前で鎖に縛られて注目を集め、この試験で最もマイナスな要素である『マインド』を一番初めに発動させ、自分の思考はディスプレイに表示される。

奏がこの現状を何とかしようと焦れば焦るほど、今後の試験のことに不安を感じれば感じるほどに鎖は強く彼女を締め付け、コンピューターウイルスに侵されたPCの画面みたいに大量のディスプレイが空間に表示される。


「これがあの試験官が言ってたやつかよ」

「私たちもこうなって動けなくなる前に早く試験エリアに行かなきゃ」


奏を見たほかの受験生たちは「自分はああはなるまい」という勢いで、行動を開始する。


「え……ちょっと」


奏のそんな声が響くころには目の前に何百といた受験生はいなくなっていた。

自分に当たられていた視線がなくなったからか、知らない人に話さないといけないという考えがいったん抜けたからなのか、奏を縛っていた鎖は段々と力を緩めていた。

そして残っているディスプレイに写っていた文字は『これからどうしよう』という奏の心の内をあらわした言葉だけだった。


「こんなんじゃ、協力してくれる人なんて誰も出来っこないよぉ」


奏がそんな弱音をはいた次の瞬間、誰もいないはずのこの場所でとある声が響いた。


「やっと人を見つけましたわ!!」


奏が声のした方向へむくと、金色の綺麗な長髪で赤いメッシュを入れてゴスロリ服を着ているかなり風変りな容貌の女性がこちらに向いて走っていた。

よく見るとその女性からは虹色の煙が噴き出しており、奏からはその煙が彼女の視界の邪魔になっているようにも感じた。


「虹色の煙に包まれている間に殆どの受験者が居なくなっていることに落胆したわたくしが見つけたのは、えらく知的そうな眼鏡をかけた少女でしたわ!」

「はい?」


目の前の女性のエセお嬢様言葉で展開される語り口調の言葉に奏は困惑する。

そんな様子の奏に気づいたのか、奏の方に向き直り恥ずかしそうな顔を浮かべる。


「わたくしとしたことが、見知らぬ人の前で自分の世界に没頭してしまうなんて」


目の前の女性が奏を見ながら恥ずかしがるのと比例するかのように彼女から出ている虹色の霧がなくなっていく。


「えぇっと、私と同じで受験生の人だよね」

「ええ、そうですわ。先ほどはお見苦しいところをお見せしてしまいましたわね、知的そうな受験生のかた」

(この人、眼鏡かけてる人のこと全員知的な人だと思ってるんじゃ)


奏がそう心の中で思っていると目の前の少女はクスリと笑った。


「私があなたを知的だと思った理由は眼鏡だけではないですわよ、案外おっちょこちょいなのですわね」

「え?」


奏がなぜ自分の考えが読まれたのか不思議に思っていると金髪の少女が指を差しながらその理由を答えてくれた。


「後ろのディスプレイに考えてること全部映ってますわよ」


そう言われた瞬間、奏は急いで自分の後ろを確認すると、ディスプレイには奏が心な中で思っていることが全部書かれていた。


「ああぁぁぁ、違うんです、違うんですこれはその、別にあなたを変に思ったとかそうゆうわけじゃなくて」


奏が顔を赤面させながら慌てて弁明しようとし、それに合わせて奏の周りには大量の心の内が殴りかきされたディスプレイが現れ、奏を縛っていた鎖は荒ぶっていた。


「別にいいですわよそんなに慌てなくても、でもこれで確信が持てましたわ」


そう言うと金髪の少女は奏に向かって手を差し伸ばしていた。


「あなた、わたくしと一緒にチームを組みませんこと?」

「え、私と?」


奏がそう言うと金髪の少女は笑顔で肯定した。


「ええ、わたくしあなたのように色々考えるのは苦手ですのであなたがいると心強いですもの。それに私と組んだからには絶対後悔させませんわ!」


力強くそう言ってくれた彼女の言葉によって奏の心を支配していた不安はすべてなくなり、気が付けば奏を縛っていた鎖も、考えを映していたディスプレイもなくなっていた。


「うん、うん。私もあなたがいてくれると心強いと思う」

「それではチーム結成ですわね!!そうだ自己紹介しましょう。私の名前は天野理夜あまのりやですわ」

「私の名前は秋乃奏あきのかなで。天野さんこれからよろしく」

「理夜でいいですわ。こちらからもこれからよろしく奏さん」

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