トモくん、やさぐれる[二]

「おーい!! トモくーんっ!?」


 ひょっとしたら、おれの家に向かっているかもしれない。そうも思い、恥を忍んで大きな声で彼を呼ぶ。トモくんは、本当は隠れたくなんてないんだ。ただ見つけて欲しいだけなんだってことは、なぜだかおれにもわかっていた。


 兄弟はいないけれど、なんとなくトモくんのことが弟のような存在になっていたから。


 やがて、自転車のライトが防波堤にたたずむ小さな影をとらえた。


「トモくん?」


 大きな声で呼びかけると、トモくんは一瞬おれの顔を見てからうつむいて、顔を両手でごしごしと拭いていた。


 泣いてたんだ。


「トーモくん。地域限定グレープジュース飲む? おれみんなに分けようと思っていたんだけど、トモくんにあげるのを忘れちゃっていたんだ。ごめんな?」

「ツトムおにーちゃんは、きらい!!」

「おっとぉー。若い魂をそのままぶつけてもらえて、ツトムおにーちゃんはうれしいかぎりです。そしておれは、誰がなんと言おうと、トモくんのことが大好きです」


 気づいて? ひとりじゃないんだよ? きみが生まれてここまで育つまでの間に、たくさんの人たちの深い愛情をそそがれているんだよ。それは決して表立ってはわからないけれど、本物の愛なんだ。


「とりあえず、ジュース飲まない?」


 トモくんは泣きはらした瞼を手の甲でこすり、コクンと頷いた。


「じゃあ、おれ横に座るよ? いい?」


 きちんと確認を取ってから、トモくんの横に座る。そろそろ潮風が寒いくらいだけど、走ってきたおれにはちょうどよかった。


「寒くない?」


 トモくんに聞くと、またコクリと頷いた。グレープジュースの蓋を開けて、トモくんに渡した。


 それを一口飲んだトモくんは、おいしい!! と目を輝かせた。


「それはよかった」


 それからトモくんは、グレープジュースをごくごくと一気に飲み干してしまった。きっとたくさん泣いたから、喉がカラカラに乾いていたのだろう。


 おれは真っ暗な海を眺めながら、さてどうしたものかと腕を組んだ。


 つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る