第4話 微熱

「それでは。白百合家でなんの演目を上演するかを決めてゆこう。みんなはなにがいい?」


 薫が仕切る中で、みんなのアイドル響くんが元気に手をあげて答える。


「はいっ!! かわいいぼくを活かすためには、白雪姫とか、シンデレラがいーなー?」

「響はきっと、かわいいと思う」


 舜ってやつは、なんの照れも抵抗もなくこんなことをさらっと言えるんだ。すごいだろ? そりゃ女子にモテるよな。


「じゃあ、努は? こら、ぼーっとするな」


 あ? ああ。おれ、ぼんやりしてるんだっけ? っていうか、すごく眠たい。


「薫、努熱がある!!」


 舜のけわしい声がやたら遠くに聞こえる。


「海に入って風邪ひいたのか? とりあえず、保健室に連れて行こう」


 あー、先生。おれ、腹が痛いんで調理室に行きますー!! へへっ。なんだろう? なんでかなつかしいな。


 ……うん? なつかしい? おれ、そんなこと言った覚えないのに、な?


 意識が、遠く、なる――。


 ☆ ☆ ☆


「あ。起きた」


 目を覚ませば、親友の海原 薫がおれの顔をのぞきこんでいた。どうせなら絶世の美女がよかったのだけれども、残念ながらここは


「あれ? 音木学園って共学だったっけ?」

「熱でやられたかもしれない。やはり病院に連れて行こう」


 舜がものすごく真剣な顔をして言うもんだから、おれは事実がどれでどうなのかなんてわからなくなってしまった。


「努生きてる? ここはたのしいの音木学園だよぉ?」


 おお響。そうか、共学か。……頭の中でなにかがわかりそうな気がしたけれど、わからなくて、頭を左右に振った。


 やめておこう。思い出せない夢のような話なんて、現実味はない。


 それに、だったらこれからみんなでいくらでも作ればいい!!


 保健室の布団で寝かされていることに気がついたおれは、上半身を起こしてみんなにあいさつをすることにした。


「すまん。おれ、倒れたのか?」

「覚えてないか? 熱はほんの微熱だったが」


 保健医の栗林先生が顔をしかめる。


「タクシーで帰るか? それとも、ご両親に連絡した方がいいか? なんならわたしが、病院までつきそうが」

「いや、そこまでしていただかなくても大丈夫です。きっと、ただ海水に浸かって風邪気味なだけだと思うので」

「そうか?」


 なおも心配してくれる栗林先生に手を振って、元気なことをアピールするも、やはり少し、足元がふらつくみたいだ。


「ぼくが責任を持って、努を家まで送り届けます」


 だから、心配しないでください、と薫が言ってくれたので、栗林先生も納得してくれたのだった。


 つづく

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