第3話 情報収集

「惚れたな?」


 ジャージに着替えた薫が、まだぼんやりしているおれの脇腹を突いて言った。


「なっ!? そんなわけないだろうがっ」


 一応反論はしたけれど、薫がにやけているのは変わらない。


「まったく。昔からわかりやすいな、きみは」


 今度は舜にまで言われてしまう。おれたちの学生服は、舜と響の計らいによって、一度水道の水で海水を洗い流し(なんと、愛のあることに手洗い!!)、理解ある先生によって校庭に干してくれたのだった。


 まぁ、おれはなにもできなかったけれど、人命救助に向かったことは褒められた。


「でもさぁ、白百合さんって言ったっけ? あの旧館に引っ越してきたのって、あの子たちなんだよねぇ?」


 さらっと響が現実を叩きつけてくれた。そうだ。最近この辺りで引っ越しがあったのは、長いこと空き家になっていたモダンな旧館しかない。しかも、急に買い手がついたとかで、あわただしくリフォームまでしていたっけ。


 ってか、あの旧館ですって? おっ金持ちじゃん。ああ、おれの初恋は数時間で泡と消えた。


「ま、そう力を落とすなって。実の所、その旧館の新しい主人である白百合さんから劇場部へのご指名がきている。これってひとつの運命なんだろなぁ?」


 薫がひやかすようにまたおれを突いた。


「なっ!? じゃあ、薫はあの人のことを知っていたのか?」

「いや? 偶然、偶然。たまたまうちの父さんと知り合いだからって理由でご指名がきただけ。なんでも、奥さんに子供が生まれるらしい」


 うおっ。情報が盛りだくさんすぎて飲み込めるかなっ!? つまり、薫の父さんは市会議員をしている。その知り合い……、やっぱりお金持ちじゃんっ。


「ねぇねぇ、赤ちゃんの性別ってわかってるの? ぼくかわいいけど、さすがに赤ちゃんにはかなわないな」


 響がめずらしく謙虚なことを言い出した。そうだ。そうすると、あのトモくんがお兄さんになるってことか。それでなんとなく荒ぶれて、海に入っちゃったのだろう。男の子ってそういう時期があるよねー。


「うん、女の子だってさ。でもなんか、ちょっと心配らしくて。こっちに越してきたのも、空気がいいからとか言っていたよ。ちなみに、白百合家のおじ様は優秀な外科医ってことで、地元の病院に入ってくれるらしいから、みんな安心して骨を折れるな?」

「たのむから。嘘でもそういうことは言わないでおいてもらいたい」


 人生ですでに五回もの骨折を経験しているおれにはぞっとする話だ。ちなみに骨折の原因は常につまらないところにある。ヒーローになれると思ってすべり台から飛び降りたとか、ブランコから落っこちたとか、バナナの皮で滑って転んだとか。ああくそっ。なんでおれって、こんなにモブなんだっ!!


 つづく

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