寸劇 『エリザベートへの愛』 そして……

〈キャスト〉


 ※トート閣下(死)……山口 努


 ※エリザベート(シシィ)……川崎 糸子


 ※ルキーニ及び語り部……陸田 舜


 ※フランツ・ヨーゼフ……海原 薫


 ※ルドルフ……空野 響



〈ただいまより、寸劇『エリザベートへの愛』を上演いたします。最後までごゆっくりご観覧ください〉


 ※開演ブザー


 ※語り部の話にあわせて、演者が芝居をする。


 ☆☆☆


「えいっ!! わたしはこの高い木のてっぺんにどうしても登りたいのっ!! ……あっ!?」


 木の枝から足を滑らせてしまったうつくしい少女、その名をシシィと言います。彼女は転落し、黄泉の国へと迷い込んでしまいました。


「おいで、うつくしい少女。名前をなんと言う?」

「シシィ。あなたは? ここはどこ?」

「ここは黄泉の国だよ。きみはもう、帰ることができないんだ」

「嘘つき!! わたしを帰してよぅ!!」

「なんと気高い魂の持ち主だろう。肉体の方はまだ大丈夫そうだ。よし、特別に今回は地上に帰してやろう」


 トート閣下はそう言うと、シシィの魂を地上に戻してあげました。


「シシィ。なんとうつくしいのだろう。彼女の魂が極限までたかめられたその時、きっとあなたを迎えに行くよ。それまで待っていてくれ」


 トート閣下のそんな想いも知らずに、シシィはその後、オーストリア皇后として、フランツ・ヨーゼフの元に嫁いで行きました。


 ところが、夫のフランツは極度のマザコンで、なんでも母親のゾフィの言いなりでした。


 それゆえにシシィはせっかく授かった子供を奪われ、会うことすらゆるされなかったのです。


 トート閣下は幾度となくシシィの元にあらわれては、死ぬことをそそのかします。ですが、高貴な魂を持ったシシィはその言葉に惑わされることなく、より気高くうつくしくなってゆきました。


 ところが、予想外のことが起こります。


 シシィの息子のルドルフが、不穏な死を遂げたのです。はたして他殺なのかどうかもわからないまま、シシィは途方に暮れてしまいます。なにしろルドルフは、たまにしか会うことのできない彼女に、一緒にいてほしいと常に懇願していたからです。


 外交のためと割り切り、ルドルフに冷たい態度を取ってしまったことを深く後悔していたのです。


 そして、ルドルフの死の真相がわからないまま悲嘆にくれたシシィは死を選びますが、トート閣下はそれを拒みます。


 どんどん孤立してゆき、過激なダイエットに励むシシィは、精神的にも追い詰められてゆきます。


 ☆ ☆ ☆


「もういい!! 十分だ!!」


 なんてことだ!? 芝居はまだおわっていないのに、仏様が怒鳴り込んできた!!


 つづく


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